疑念は探究の動機であり、探究の唯一の目的は信念の確定である。

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シンプレクティック幾何学について今年までに理解したいこと。

私は現在、シンプレクティック幾何学の論文を読んでいます(Viterbo: An Introduction to Symplectic Topology thorough Sheaf Theory)。この論文は2部構成となっていて第一部がシンプレクティックで、第二部が層の理論(圏論)を扱っています。去年までシンプレクティックの部分を勉強していて、今年からは層の方をさらっとセミナーで行う予定です。ですので、セミナーではこれ以上詳しくはシンプレクティック幾何学の基礎的なことを勉強することはできないかもしれませんが、現在までにさらっとやったことや疑問に思ったことを今年までに自分で理解できたらいいなと思っておりまして、今回は私の疑問を書きたいと思います。

 

まだ、多様体の知識もあやふやな私にとって、その基礎から勉強しなければならないのに、それらの知識をフル動員して研究されるシンプレクティック幾何学の分野。とても難しい。私のこれまでの理解だと、シンプレクティック多様体(M, \omega)とは古典力学のアイディアを数学的に抽象化されたものであると考える。実際、配位空間をn次元多様体Nとすると、ラグランジュ力学の舞台である状態空間は2n次元のタンジェントバンドルTNであり、ハミルトン力学の舞台である相空間(物理の人ならば位相空間とも言う)はコタンジェントバンドルT^{*}Nであり、コタンジェントバンドルつまり相空間は標準的なシンプレクティック形式(リュウビル形式)が存在するから相空間は典型的なシンプレクティック多様体である。 さらに状態空間TNと相空間T^{*}Nを双対的に行き来する写像ルジャンドル変換である。

このようにシンプレクティック幾何学は物理の概念やアイディアが常にあるのだが、数学寄りのシンプレクティック幾何学の本は----下手したらアーノルドの『古典力学の数学的方法』以外-----そのような物理の考えは捨象され、いきなりシンプレクティックベクトル空間から始まるのが相場である。だから、それらの概念の物理的な起源なるものは全くといってよくわからない。だから、この洗練されたシンプレクティック幾何学の数学的概念と起源としての物理的概念・アイディアの間隙を埋めるべく、いま多様体を始めシンプレクティック幾何学を勉強している(毎日、Abraham & MarsdenのFoundations of Mechanicsを読むのが今年の目標である。もちろん、それ以外のシンプレクティック幾何学の著作や論文を読む)。 そのなかで、いま気になっていることを以下に書く。

 

(1): どうして、ラグランジュ部分多様体と言われるのか?

シンプレクティック多様体(M,\omega)が与えられたとき、その部分多様体としてラグランジュ部分多様体Qが定義されている。それは任意の接空間T_qQラグランジュベクトル空間であるというものである。つまり、T_qQ = (T_qQ)^{\omega}が各点q\in Qで成り立っているということである。

A. Weinstein曰く、すべての重要なものはラグランジュ部分多様体であるという。いたるところにラグランジュ部分多様体が出現するのかもしれないし重要なのかもしれないが、私のそもそもの疑問はなぜこの概念が「ラグランジュ部分多様体」と言われるのか、ということである。他にも、何かラグランジュ力学と関係があるのか?とかこの定義はラグランジュ方程式と関係があるのか?などである。そして、なぜかくもラグランジュ部分多様体は重要なのかということである。

だが、このシンプルな洗練された形の定義からはそれらの疑問を答えることはできない。これらはこれから私が探究する際に常に心に留めておくものである。

 

(2): モーサートリック(Moser trick)を理解したい!

ダルブーの定理(局所的には全てのシンプレクティック多様体は同じ)を証明したり、他にもいくつかの定理を示すときには、いつもいわゆる「モーサートリック」によって示されている。が、正直これは何をやっているのかまったくわからない。多様体の知識(リー微分とか)をフルに使っているので、まだわからない。だから多様体を勉強して、モーサートリックを完璧に理解したい。

 

 

(3): ポアソン括弧の真の意味を理解したい!

私はまだポアソン多様体のところを勉強したことがない。これまで私は深谷先生の『電磁場とベクトル解析』でしかポアソン括弧に遭遇していない。そしていまのところ「ポアソン括弧は単なる省略記号に過ぎない」と思っている。実はそうではないというのは聞いたことがあるが、真相はまだ知らない。だから、ポアソン括弧の真価というものを理解したい。もちろん、なぜかくもポアソン多様体は重要で包容な世界なのかということも理解したい。

 

 

(4): ハミルトン・ヤコビの理論について。母関数について。

ハミルトン・ヤコビの方程式を導出するとき、たとえば、山本・中村の『解析力学 II』ではカラテオドリ(Carathéodry)が導入した測地場(Geodesic Fields)を用いている(pp.356-358)。が、それは多様体やリーマン多様体ではどのように一般化・抽象化されているのだろうか? Yano and Nagano, Geodesic Vector Fields in a Compact Riemannian Spaceは参考になるかもしれない。

また、母関数(Generating Functions)はハミルトン・ヤコビの理論において欠かせない存在であるが、それらもシンプレクティック幾何学では母関数族として存在しているし、決定的に重要なものである。が、それは従来のとは幾分異なったものと思われる(この前、先生と議論してそのような結論を得た)。それは一体なんなのか?どのように抽象化されたのか?さらに、母関数だけでなく特性関数(Characteristic Functions)なども登場するが、これらは数学の分野ではどのように概念化されている(いない)のだろうか?

 

(5): 古典力学に出てくる他のたくさんの概念やアイディアが数学概念としてどのように定式化されているのか理解すること。

たとえば、接触多様体については「接触多様体の起源は配位空間の接触要素の作る多様体である」(アーノルド: p.348)らしいし、可積分系も起源はリュウヴィルの定理からだろうし。たくさんの物理のアイディアがどのように数学に一般化・抽象化されるのか特にその過程を理解したい。

 

 

(6): シンプレクティック幾何学変分法との関係。

変分問題。調和写像幾何学的変分問題。解析に接近する。

 

 

(7): KAM理論を理解したい!

 解析力学幾何学化という流れを理解したい。

 

 

 

先は長いが、一歩一歩自分の足で大変な道を進まなければならない。

 

追記 2018/04/26

Lagrangian多様体について

Lagrangian多様体の言葉の由来について

Abraham MarsdenのFoundations of Mechanicsには

The terminology "Lagrangian subspace" was apparently first used by Maslov[1965], ...

p.403

と書かれている。

Maslovの本は原著はロシア語であり、参考文献のものはフランス語のThéorie des perturbations et méthodes asymptotiquesというものであった。

弊図書館にはフランス語と日本語版があった。が、ロシア語はなかった。日本語版『摂動論と漸近的方法』を調べてみたが、索引がほとんど書かれていなかった。しかし幸いにLagrangian多様体は索引に書かれていた。該当箇所を見てみた。突然出てきた感があるし、パラパラと見た感じでは「Lagrangianベクトル空間」はなかった。ラグランジュ方程式に由来してLagrangian多様体と命名していた。そこからいかに現在の定義へとつながるのかはまだ私はわからない。

 

「すべてはLagrangian部分多様体である」というスローガンについて

A. WeinsteinのSymplectic Geometry(Bull. Am. Math. Soc., Vol.5, No.1, 1981, pp.1-13)に「すべてはLagrangian部分多様体である」と大きく書かれている。

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ただし、この論文が最初かどうかはわからない。Weinsteinはこの論文の以前にLectures on symplectic manifolds(1977)を出版している。もしかしたら、ここがスローガンの最初の出典かもしれない。

このスローガンの意味をWeinsteinは説明しているが、まだわからない。

以上。引き続き研究する。

 

 

僕から以上