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縮小写像とその応用 (1) 縮小写像の原理

概要

完備距離空間の良い応用例として縮小写像がある。その縮小写像は汎用性があり色々なところで応用されている。例えば、微分方程式の解の存在性と一意性を証明するときに、縮小写像の性質が使われる。今回は、完備距離空間の定義からはじまり縮小写像を定義して、縮小写像の原理と言われる定理を証明したい。 

 

 

 

準備

縮小写像を定義するにあたって、まず完備距離空間についてまとめよう。すなわち、距離空間、収束列、コーシー列、完備距離空間連続写像の定義とそれらのいくつかの定理である。もしも、読者がそれらのことについて既知であれば、次のセクション(縮小写像)から進んでほしい。

 

距離空間

距離空間とは位相空間の一種である。そこには、「距離」というものが定義されているので、収束や連続性が定義できるのである。

定義 1 (距離空間)

{X}を集合として、{d}{X\times X}から実数 {\mathbb{R}}への関数とする。つまり、{d: X\times X\to \mathbb{R}}とする。写像 {d}が次の3つの性質を満たすとき、{d}距離(metric)といい、{(X, d)}距離空間(metric space)という。

任意の点 {x, y, z\in X}に対して

(1) {d(x, y)\geq 0}であり、{d(x, y) = 0}となるのは {x = y}であるときのみ。つまり、{d(x, y) = 0\iff x = y}

(2) {d(x, y) = d(y, x)};

(3) {d(x, z)\leq d(x, y) + d(y, z)}

 

      例えば、{\langle \mathbb{R}, d\rangle}距離空間である。ただし、距離 {d}{d(x, y):= | x-y |}である。

 

完備性

距離空間より収束や連続性が定義できる。まずは収束とそれに関わるコーシー列(基本列)を定義する。

定義 2 (収束)

{\langle X, d\rangle}距離空間とする。点列 {\{x_n\}_{n\in \mathbb{N}}}とは、自然数 {\mathbb{N}}から {X}への写像 {x_n}の集合である。つまり、{\{x_n: \mathbb{N}\to X,\,\, n\mapsto n_x\}_{n\in \mathbb{N}}}

点列 {\{x_n\}_{n\in\mathbb{N}}}が点 {x_0\in X}収束する(convergent to )とは、任意の正数 {\varepsilon \succ 0}に対して、ある自然数 {n_0\in \mathbb{N}}が存在して、{n\geq n_0}ならば、{d(x_n, x_0) \prec \varepsilon}が成り立つことである。つまり、

{^\forall \varepsilon \succ 0,\,\, ^\exists n_0\in \mathbb{N},\,\, n\geq n_0 \Rightarrow d(x_0, x_n) \prec \varepsilon}*1

ある点列がある点に収束するとき、それを収束列という。

      例えば、先ほどの距離空間 {\mathbb{R}}においては、点列 {\{x_n\}_{n\in\mathbb{N}}}が点 {x_0\in \mathbb{R}}に収束するとは、任意の正数 {\varepsilon \succ 0}に対して、ある自然数 {n_0\in \mathbb{N}}が存在して、{n\succ n_0}ならば {| x -y |\prec \varepsilon}となることである。

 

     収束列はある点に収束している点列である。したがって、もしある点列が収束列であることを示すためには、まずその収束点の存在を示さなければならない。これは、一般にはとても難しい。

      続いて、完備性の定義に必要なコーシー列を定義する。これは点列間の差に注目している。

定義 3 (コーシー列)

点列 {\{x_n\}_{n\in \mathbb{N}}}コーシー列 (Cauchy sequence)または基本列であるとは、任意の正数 {\varepsilon \succ 0}に対して、ある自然数 {n_0\in\mathbb{N}}が存在して、{n \geq m \geq n_0}ならば、{d(x_n, x_m) \prec \varepsilon}が成り立つことである。つまり、

{^forall \varepsilon \succ 0,\,\, ^\exists n_0\in\mathbb{N},\,\, n\geq m\geq n_0\Rightarrow d(x_n, x_m)\prec 0}

      例えば、先ほどの距離空間 {\langle, \mathbb{R}, d\rangle}においては、点列 {\{x_n\}_{n\in \mathbb{N}}}がコーシー列であるとは、任意の正数 {\varepsilon\succ 0}に対して、ある自然数 {n_0\in \mathbb{N}}が存在して、{n\geq m \geq n_0}ならば、{|x_n - x_m|\prec \varepsilon}が成り立つことである。 

      

      コーシー列は収束列とは異なり点列間の差だけを問題としている。ある点列がコーシー列であることを示すほうが一般には易しい。

 

  収束列とコーシー列の関係を考えてみよう。容易にわかるようにすべての収束列はコーシー列である。実際、点列 {\{x_n\}_{n\in \mathbb{N}}}が点 {x_0\in X}の収束列であるとする。任意の正数 {\varepsilon\succ 0}を取る。{\varepsilon/2}は当然正数であるので、これに対して収束の定義を適用する。つまり、ある自然数 {n_0\in \mathbb{N}}が存在して、{n_0}以上のすべての自然数 {N\in\mathbb{N}}に対して、{d(x_0, x_N)\prec \varepsilon/2}が成り立つ。よって、距離 {d}の性質 (3) ---これを三角不等式という---により、{n_0}以上のすべての自然数 {n\geq m}に対して、

{d(x_n, x_m)\leq d(x_n, x_0) + d(x_0, n_m) \prec \varepsilon/2 + \varepsilon/2 = \varepsilon} 

が成り立つ。すなわち、任意の正数 {\varepsilon\succ 0}に対して、ある自然数 {n_0\in\mathbb{N}}が存在して、{n\geq m\in \mathbb{N}}ならば、{d(x_n, x_m)\prec \varepsilon}が成り立つ。つまり、収束列はコーシー列である。

  だが、この逆は一般には言えない。つまり「すべてのコーシー列は収束列である」とは言えないのである。そしてまさにそのことを保証している性質が「完備性」なのである。

定義 4 (完備性)

距離空間 {\langle X, d\rangle}完備である(complete)とは、任意のコーシー列が収束列であることである。このような性質を持つ距離空間完備距離空間(complete metric space)という。

  

  これからの議論はすべてこの完備距離空間で行われる。要はある点列が収束点を持つことを言うために、その点列がコーシー列であることを示すということである。

  次に連続写像を復習する。 

 

連続写像 

定義 5 (連続写像

{(X, d_X),\, (Y, d_Y)}距離空間として、{f: X\to Y}写像とする。 

このとき写像 {f}が点 {x_0\in X}において連続であるとは、任意の正数 {\varepsilon \succ 0}に対して、ある {\delta \succ 0}が存在して、任意の {x\in U^{X}_{\delta}(x_0)}に対して、{f(x)\in U^{Y}_{\varepsilon}(f(x_0))}が成り立つことである。ここで、{U^{Z}_{r}(a): = \{ y\in Z\,|\, d_Z(y, a) \prec r\}}である。ただし、{r \succ 0,\, Z = X\,\, \text{or}\,\, Y,\, a\in Z}である。しばしば上付きの {Z}は省略することを約束する。

{f: X\to Y}が点 {x_0\in X}で連続である。{\iff,\,\, ^{\forall}\varepsilon\succ 0,\, ^{\exists}\delta\succ 0,\, ^{\forall}x\in U_{\delta}^{X}(x_0)\, \Rightarrow\, f(x)\in U_{\varepsilon}^{Y}(f(x_0))}

各点 {x\in X}に対して、写像 {f: X\to Y}が連続であるとき、{f}は空間 {X}上で連続である、または、単に連続であるという。

 例えば、{\langle X, d \rangle}距離空間としたとき、関数 {f: X\to \mathbb{R}}が点 {x_0\in X}で連続であるとは、任意の正数 {\varepsilon \succ 0}に対して、ある正数 {\delta\succ 0}が存在して、各点 {x\in U_{\delta}(x_0)}対して、{|f(x) - f(x_0)|\prec \varepsilon}が成り立つことである。

 

この連続の定義は要は「誤差はいくらでも小さくできる」という意味である。さらに、特に距離空間のとき、写像の連続性は点列で表すことができる。すなわち、

補題 1 (連続の同値) 

{\langle X, d_X\rangle,\, \langle Y, d_Y\rangle}距離空間{f: X\to Y}写像とする。このとき、点 {x_0\in X} に対して、次の(1)と(2)は同値である。

(1) 写像 {f: X\to Y} は点 {x_0\in X} で連続である。

(2) 点 {x_0\in X} に収束する任意の {X} の点列 {\{x_n\}_{n\in \mathbb{N}}} に対して、{Y} の点列 {\{f(x_n)\}_{n\in\mathbb{N}}}{f(x_0)} に収束する。 

実際今回使われるのは、{(1) \Rightarrow (2)} であるので、仮に逆---{(2) \Rightarrow (1)}---がわからなくても問題ない。 

証明 

{(1) \Rightarrow (2)} 

{f} は点 {x_0\in X} で連続であるとする。点 {x_0\in X} に収束する {X} の任意の点列 {\{x_n\}_{n\in\mathbb{N}}} をとる。このとき、我々は 任意の {\varepsilon \succ 0} に対して、ある自然数 {n_0} が存在して、{n\succ n_0} ならば {f(x)\in U_{\varepsilon}(f(x_0))} が成り立つことを示せばいい。

任意の {\varepsilon \succ 0} をとる。{f}{x_0} で連続であるから、ある {\delta \succ 0} が存在して、任意の {x\in U_{\delta}(x_0)} に対して、{f(x)\in U_{\varepsilon}(f(x_0))} 

が成り立つ。いま、 {\{x_n\}}{x_0} に収束するので、{\delta \succ 0} に対して、ある自然数 {n_0}が存在して、{n\geq n_0} に対して、{x_n\in U_{\delta}(x_0)} が成り立つ。したがって、任意の {\varepsilon \succ 0} に対して、ある自然数 {n_0} が存在して、{n\geq n_0} ならば、{f(x_n)\in U_{\varepsilon}(x_0)} が成り立つ。つまり、{Y} の点列 {\{f(x_n)\}_{n\in\mathbb{N}}}{f(x_0)\in Y} に収束する。

{(2) \Rightarrow (1)} 

{x_0} に収束する {X} の任意の点列 {\{x_n\}_{n\in \mathbb{N}}} に対して、 {Y} の点列 {\{f(x_n)\}_{n\in\mathbb{N}}}{f(x_0)} に収束するとする。このとき、写像 {f: X\to Y} が点 {x_0\in X} で連続でないと仮定して、矛盾を導き出す。{f} が点 {x_0} で連続でないとは、つまり、ある正数 {\varepsilon_0 \succ 0} が存在して、任意の正数 {\delta \succ 0} に対して、{f(x)\notin U_{\varepsilon_0}} となる {x\in U_{\delta}(x_0)} が存在する。

このとき、{\delta}{1, 1/2, \ldots, 1/n, \ldots} とすると、ある {x_n\in U_{1/n}(x_0)} が存在して、{f(x_n)\notin U_{\varepsilon_0}(f(x_0))} が成り立つ。よって、点列 {\{x_n\}_{n\in \mathbb{N}}} が得られる。この点列は容易にわかるように {x_0\in X}には収束する。実際、{0\prec r_2\leq r_1\in \mathbb{R}} ならば、{U_{r_2}(x_0)\subset U_{r_1}(x_0)} より、任意の正数 {\varepsilon \succ 0} に対して、{n_0 \succ 1/\varepsilon} となる自然数 {n_0} を取れば、任意の {n\geq n_0} に対して、{0 \prec 1/n \leq 1/n_0 \prec \varepsilon} より、{x_n\in U_{1/n}(x_0)\subset U_{1/n_0}(x_0)\subset U_{\varepsilon}(x_0)} である。つまり、{x_n\in U_{\varepsilon}(x_0)} である。

したがって、(2)の条件より、点列 {\{f(x_n)\}_{n\in \mathbb{N}}}{f(x_0)} に収束する。だが各自然数 {n} に対して {f(x_n)\notin U_{\varepsilon_0}(x_0)} により、{\{f(x_n)\}_{n\in \mathbb{N}}} は {f(x_0)\in Y} に収束しない*2。矛盾である。よって、(1)が成り立つ。

 

証明終わり

 

 

縮小写像

以上の準備をして、本題へ入ろう。

まず縮小写像の定義をする。

定義 6 (縮小写像)

{\langle X, d \rangle} を完備距離空間とする*3写像 {A: X\to X}縮小写像(contraction mapping)であるとは、ある正数 {0\prec \alpha \prec 1} が存在して、任意の点 {x, y\in X} に対して、

                       {d(Ax, Ay)\leq \alpha d(x, y)}

が成り立つことである。

 

すべての縮小写像は連続である。すなわち、

補題 2 (縮小写像は連続)

{\langle X, d\rangle} を完備距離空間として、{A: X\to X} を縮小写像とする。このとき、{A}{X} 上で連続である。

証明 

任意の点 {x_0\in X} を取る。任意の正数 {\varepsilon \succ 0} に対して、 {\delta : = \varepsilon/\alpha \succ 0} とおけば、{d(x, x_0) \delta} ならば、{\alpha d(x, x_0)\prec \varepsilon} である。{A: X\to X} は縮小写像より、任意の点 {x\in U_{\delta}(x_0)} に対して、

{d(Ax, Ax_0)\leq \alpha d(x, x_0)\prec \varepsilon}

よって、{d(Ax, Ax_0)\prec \varepsilon}である。つまり、任意の正数 {varepsilon} に対して、ある正数 {\delta} が存在して、任意の点 {x\in U_{\delta}(x_0)} に対して、{Ax\in U_{\varepsilon}(Ax_0)} である。

よって、各点 {x_0\in X} で連続である。

証明終わり

 

 

縮小写像の原理

それでは完備距離空間の応用例の一つである縮小写像の原理----これは実際は定理である----を示そう。

 

定理 1 (縮小写像の原理)

完備距離空間における縮小写像は、ただ一つの不動点を持つ。

すなわち、{\langle X, d \rangle} を完備距離空間として {A: X\to X} を縮小写像とする。つまり、ある正数 {\alpha} < 1 が存在して、任意の点 {x, y\in X} に対して、{d(Ax, Ay)\leq \alpha d(x, y)} が成り立つとする。

このとき、ある点 {x_0\in X} が存在して、{Ax_0 = x_0} が成り立つ。しかもそのような点はただ一つしか存在しない。

以下に証明を行う。大体の概要は次のようなものである。つまり、まず不動点 {Ax_0 = x_0} の存在を証明する。ある数列を構成して、それがコーシー列であることを示す。そして、完備距離空間の性質よりその数列には極限値が存在することがわかる。数列の構成からその極限値が実は不動点であることが示される。そのときに、縮小写像の連続性が使われる。

次に、不動点の一意性の証明である。これは易しい。二点の不動点 {x_0}{y_0} が存在すると仮定したとき、{x_0 = y_0} であることを示せばよい。縮小写像 {A} と距離関数 {d} の性質を使えばよい。

それでは証明を行う。

 

証明

はじめに不動点の存在を示す。次に不動点の一意性を示す。

(I) 存在性

任意の点 {x_0\in X} をとる。もし、{x_0}{Ax_0 = x_0} を満たすならば、それはまさしく不動点である。

そこで、{Ax_0 \neq x_0} とする。{x_1 := Ax_0 (\neq x_0)} とおき、一般に {x_k: = Ax_{k-1}} とおく。すると、{x_n = A^{n}x_0\in X} を得る({n\in \mathbb{N}})。点列 {\{x_n\}_{n\in\mathbb{N}}} がコーシー列であることを示す。つまり、任意の正数 {\varepsilon \succ 0} に対して、ある自然数 {n_0\in \mathbb{N}} が存在して、 {m\geq n\geq n_0} ならば {d(x_m, x_n)\prec \varepsilon} が成り立つことを示す。

{m\geq n} として、{A: X\to X} は縮小写像より、

{d(x_n, x_m) = d(A^nx_0, A^mx_0)}

{= d(A(A^{n-1}x_0), A(A^{m-1}x_0))}

{\leq \alpha^1 d(A^{n-1}x_0, A^{m-1}x_0)}

{\leq \alpha^2 d(A^{n-2}x_0, A^{m-2}x_0) }

{\leq \cdots \leq \alpha^n d(x_0, A^{m-n}x_0)}

つまり、{d(x_n, x_m)\leq \alpha^n d(x_0, x_{m-n})}である。 

{d(x_0, x_{m-n})} について三角不等式を使えば、

{d(x_0, x_{m-n})\leq d(x_0, x_1) + d(x_1, x_{m-n})}

{\leq d(x_0, x_1) + d(x_1, x_2) + d(x_2, x_{m-n})}

{\leq \cdots\leq} 

{\leq d(x_0, x_1) + \cdots + d(x_{m-n-1}, x_{m-n})} である。

ここで、{k = 1,\ldots, m-n-1} に対して、{d(x_k, x_{k + 1})\leq \alpha^k d(x_0, x_1)} であることが容易にわかる(帰納法を使えば示せる)。

以上より、 

{d(x_n, x_m)\leq \alpha^n d(x_0, x_1) \left(1 + \alpha^1 + \cdots + \alpha^{m-n-1}\right)}

{\leq \alpha^n d(x_0, x_1)\frac{1}{1-\alpha}}

よって、{0\prec\alpha \prec 1} であるから、{n} が十分大きければ、この右辺はいくらでも小さくなる。つまり、{\{x_n\}_{n\in \mathbb{N}}} はコーシー列である。

実際、この数列がコーシー列であることを示すために、任意の正数 {\varepsilon} を取ってみよう。{1-\alpha \succ 0} であり、{x_0\neq x_1} であるから、{d(x_0, x_1)\succ 0} である。{1-\alpha \succ 0} であるから、{\frac{1-\alpha}{d(x_0, x_1)}\varepsilon \succ 0} である。 {0\prec \alpha \prec 1} であるから、{\lim_{n\to\infty}\alpha^n = 0} である。つまり、{\frac{1-\alpha}{d(x_0, x_1)}\varepsilon \succ 0} に対して、ある自然数 {n_0} が存在して、{n\geq n_0} となる任意の自然数 {n} に対して、

{\begin{equation}\alpha^n = |\alpha^n|\prec \frac{1-\alpha}{d(x_0, x_1)}\varepsilon\end{equation}}

が成り立つ。 つまり、{m\geq n\geq n_0} に対して

{d(x_n, x_m)\leq \alpha^n d(x_0, x_1)\frac{1}{1-\alpha}\prec \varepsilon} である。

よって、任意の正数 {\varepsilon} に対して、ある自然数 {n_0} が存在して、{m\geq n\geq n_0} に対して、

{d(x_n, x_m)\prec \varepsilon} が成り立つ。これは点列 {\{x_n\}_{n\in\mathbb{N}}} がコーシー列であることを示している。

 さて、{X} は完備であるから、したがって、点列 {\{x_n\}_{n\in\mathbb{N}}}極限値を持つ。つまり、{x: = \lim_{n\to\infty}x_n} が存在する。補題 2より、縮小写像 {A: X\to X} は連続であり、補題 1の点列による連続より、

{Ax = A(\lim_{n\to\infty}x_n) }

{= \lim_{n\to\infty}(Ax_n) = \lim_{n\to\infty}x_{n + 1}}

{= x}

すなわち、不動点の存在が証明された。 

 

(II) 一意性

次に不動点がただ一つであることを示す。不動点が2つあるとする。つまり、{x_0, y_0\in X} として、{Ax_0 = x_0,\,\, Ay_0 = y_0} が成り立つとする。このとき、{x_0 = y_0} であることを示す。

{A: X\to X} は縮小写像であるから、

{d(x_0, y_0) = d(Ax_0, Ay_0)\leq \alpha d(x_0, y_0)}

である。 

よって、{(1-\alpha) d(x_0, y_0)\leq 0} である。{0\prec 1-\alpha} より、{d(x_0, y_0)\leq 0} を得る。

距離関数 {d} の公理 (1) より、{d(x_0, y_0)\geq 0} である。よって、{d(x_0, y_0) = 0} である。距離関数 {d} の公理 (1) より、{x_0 = y_0} である。

証明終わり 

 

 

まとめ

完備距離空間の縮小写像には不動点がただ一つ存在する。存在を示すときに完備性を使う。 

次回は縮小写像の応用例として、微分方程式の解の一意存在の証明をおこなう。

 

つづく

 

 

参考文献

コルモゴロフ・フォーミン著、山崎三郎訳『函数解析の基礎  第2版』§4. 縮小写像とその応用

 

 

僕から以上 

 

*1:ここで、大小関係が <ではなく、少し異なっているが、これは<と全く同じものを表している。なぜか、<を書こうとするとよくわからなくなってしまう。{\verb | [tex:{0 &lt; x}|}]と書くと、{0 &lt; x}となってしまう。だから、もし <を使いたいのならば、{\verb|tex:{0}|} < {\verb|tex:{x}|}と書かなければならない。そうしたら {0} < {x}となる。だが、このようなやり方はめんどくさい。だから止むを得ず {\prec}と書いている。

*2:{\{f(x_n)\}_{n\in \mathbb{N}}}{f(x_0)} に収束しないという定義をみたしているから。または、もしわからなければ、 {\{f(x_n)\}_{n\in \mathbb{N}}}{f(x_0)} に収束すると仮定して、矛盾を示せばいい。

*3:定義自体は距離空間でもできる。だが、縮小写像の原理の前提は完備距離空間である。