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縮小写像とその応用 (2) 微分方程式の解の一意存在定理の証明①

概要

今回と次回の記事は前回の縮小写像の原理の応用である(前回の記事はこちら)。それは微分方程式の解の一意存在定理の証明である。 今回は、存在定理を明示して、証明のアイディアを述べる。最後に証明のために必要な準備を行い、この記事を終える。完全な証明は次回の記事に記す。

 

 

常微分方程式の解の存在定理 

常微分方程式には次のような解の存在定理がある。

定理 (常微分方程式の解の存在性とその一意性)

微分方程式

     {\frac{dy}{dx} = f(x, y)}

が初期条件

{y(x_0) = y_0}

とともに与えられているとする。ここで {f(x,y)} は点 {(x_0, y_0)} を含む領域 {G} で連続、かつ {y} について Lipshitz 条件

    {|\,f(x, y_1) - f(x, y_2)\,|\leq M |y_1 - y_2|}

を満たすとする。{M \succ 0}

 

このとき、ある線分 {|x - x_0|\leq r} 上で初期条件をみたすただ1つの解 {y = \phi(x)} が存在する。

 

 

証明のアイディア

以下の方針で証明していく。

 

(1) 与えられた微分方程式積分方程式に変える

与えられた微分方程式

{\frac{dy}{dx} = f(x, y)}

{y(x_0) = y_0}

の解 {y = \phi(x)}積分方程式

{\phi (x) = y_0 + \int^{x}_{x_0}f(t, \phi(t) )dt}

と同値である。

したがって、このような {\phi} を見つければよい。このような {\phi} を縮小写像の原理(前回の定理)によって示すのである。

 

(2) 適当な定数 {r \succ 0} を定める

縮小写像の原理を使うために、適当な関数空間とそこでの縮小写像を定義したい。そのための定数 {r \succ 0} を定める。 

 

(3) 関数空間 {C^*\,\,\, C^*_b} を定義して、それらが完備であることを示す

{I:= \{ x\,|\, -r + x_0\leq x\leq x_0 + r\,\}} とおく。

関数空間 {C^*} とその部分空間 {C^*_b} を次のように定義する。

 

{C^*:= \{ g: I\to \mathbb{R}\,|\, g\,\,\text{is continuous}\,\,\}}

{C^*_b:=\{g\in C^*\,|\,\text{for all}\, x\in I, |g(x) - y_0| \leq kr\,\}}*1

ただし、{k}{(x_0, y_0)} を含むある領域 {G'\subset G}{|\, f(x, y)\,|\leq k} となる正数である。

 

距離 {d: C^*\times C^*\to \mathbb{R}} を任意の {g_1, g_2\in C^*} に対して、

       {d(g_1, g_2):= \max_{x\in I} |g_1(x) - g_2(x)|}

と定める。

このとき、これらの空間、特に {C^*_b} は完備である。 

 

(4) 写像 {A: C^*_b\to C^*} を定義して、それが縮小写像であることを示す

写像 {A: C^*_b\to C^*} を次のように定義する。

{A: C^*_b\to C^*}

{g\mapsto Ag: I\to \mathbb{R}}

 

任意の関数 {g\in C^*_b} と任意の点 {x\in I} に対して、

                   {Ag(x):= y_0 + \int^{x}_{x_0}f(t, g(t) )dt}

と定める。{Ag(x)} は連続であるので、これはwell-definedである。

 

さて、この写像 {A} が縮小写像であることを示す。つまり、

1) {A}{C^*_b} からそれ自体への写像である。

{A: C^*_B\to C^*_b;\,\, \text{Im}(A)\subset C^*_b}

 

2) ある定数 {0\prec \alpha \prec 1} が存在して、任意の {g_1, g_2\in C^*_b} に対して、{d(Ag_1, Ag_2)\leq \alpha d(g_1, g_2)} が成り立つ。

 

(5) 縮小写像の定理の発動

以上より、{C^*_b} が完備距離空間であり、写像 {A: C^*_b\to C^*_b} が縮小写像であるから、縮小写像の定理より、不動点 {\phi\in C^*_b} がただ1つ存在する。

すなわち、ある関数 {\phi\in C^*_b} が存在して、{A\phi = \phi} が成り立ち、しかもそのような関数はただひとつしか存在しない。

つまり、{\phi} は任意の {x\in I} に対して、

{A\phi(x) = y_0 + \int^{x}_{x_0} f(t, \phi(t) )dt = \phi(x)}

が成り立つ。

これはまさに求めたい微分方程式の解である。

(証明終わり)

 

 

準備

以上が微分方程式の解の存在定理の証明の流れである。あとは、細かいところをしっかりと議論しなくてはならない。例えば、関数空間 {C^*_b} が完備であることなどである。

ここでは、存在定理の証明を完成するために必要な準備を行う。

次の3つの補題を示す。これらをすでに知っている読者ならばここはスキップしても構わない。 

 

補題 1

 {\langle X, d_X\rangle}距離空間とする。関数列 {\{f_n: X\to \mathbb{R}\}_{n\in\mathbb{N}}}{f: X\to \mathbb{R}} に一様収束するとする。さらに各 {f_n: X\to \mathbb{R}} が空間 {X} で連続であるとする。

 

このとき、{f: X\to\mathbb{R}} は空間 {X} 上で連続である。

 

補足: ここで用語の復習をしよう。 

まず、関数列 {\{f_n: X\to \mathbb{R}\}_{n\in\mathbb{N}}}{f: X\to \mathbb{R}}一様収束するとは、

任意の正数 {\varepsilon} に対して、ある自然数 {n_0} が存在して、

{^{\forall}n\geq n_0,\,\,^{\forall}x\in X\,\,\Rightarrow\,\, |\,f_n(x) - f(x)\,| \prec \varepsilon}

が成り立つことである。

 

 

さらに、各 {f_n: X\to \mathbb{R}} が空間 {X}連続であるとは、各 {n\in\mathbb{N}} に対して、任意の正数 {\varepsilon} と各点 {x_0\in X}に対して、ある正数 {\delta} が存在して、

{^{\forall}x\in U_{\delta}(x_0)\,\,\Rightarrow\,\, |\,f_n(x) - f_n(x_0)\,|\prec \varepsilon}

が成り立つことである。

ここで、{U_{\delta}(x_0):=\{\,z\in X\,|\, d_X(z, x_0) \prec \delta\,\}} であり {x_0} の開集合である。

 

補題1の証明

我々は次のことを示せばよい。すなわち、任意の正数 {\varepsilon \succ 0} と 各点 {x_0\in X} に対して、ある正数 {\delta \succ 0} が存在して、

{^{\forall}x\in U_{\delta}(x_0)\,\,\Rightarrow\,\, |\,f(x) - f(x_0)\,|\prec \varepsilon}

が成り立つことを示す。

任意の正数 {\varepsilon \succ 0} をとる。

仮定より、関数列 {\{ f_n \}_{n\in\mathbb{N}}}{f} に一様収束するので、{\varepsilon/3 \succ 0} に対して、ある自然数 {n_0} が存在して、

{^{\forall}n\geq n_0,\, ^{\forall}y\in X\,\,\Rightarrow\,\, |\,f_n(y) - f(y)\,|\prec \varepsilon/3}

が成り立つ。

{m\succ n_0} となる自然数 {m} をひとつとる。各点 {x_0\in X} に対して、{f_m}{x_0} で連続であるので、{\varepsilon/3 \succ 0} に対して、ある正数 {\delta \succ 0} が存在して、

{^\forall x\in U_{\delta}(x_0)\,\,\Rightarrow\,\, |\, f_m(x) - f_m (x_0)\,|\prec \varepsilon/3}

が成り立つ。このとき、{x\in U_{\delta}(x_0)\subset X} に対して、{m \succ n_0} より、

{|\,f(x) - f(x_0)\,| \leq |\,f(x) - f_m(x)\,| }

                                                        {+ |\,f_m(x) - f_m(x_0)\,| }

                                                                        {+ |\,f_m(x_0) - f_m(x_0)\,|}

                                        {\prec \varepsilon/3 + \varepsilon/3 + \varepsilon/3 = \varepsilon}

 

したがって、{f} は空間 {X} 上で連続である。

(補題1の証明終わり) 

 

 

補題 2

{\langle X, d_X\rangle} を完備距離空間として、{A\subset X}{X} の部分空間とする。

このとき、{A} が完備であるための必要十分条件{A}閉集合であることである。

 

       {A} は完備である {\iff} {A}閉集合である

 

(存在証明では十分条件しか使われない)。

 補題2の証明

{(\Rightarrow)} 

{A} を完備部分空間とする。{A}閉集合であることを示すには、{\text{Cl}(A)\subset A} を示せばよい。ただし、{\text{Cl}(A)}{A} の閉包である。

任意の点 {x\in \text{Cl}(A)} をとる。これは {x} に収束するある点列 {\{a_n\}_{n\in \mathbb{N}}} が存在することを意味する。

{\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}} \to x;\, a_n\in A,\, x\in\text{Cl}(A)}

 

ここで、明らかに {a_n\in A\subset X,\, x\in \text{Cl}(A)\subset X} であるため、{a_n\in X,\, x\in X} である。つまり、{\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}}{X} の収束列である。よって、収束列ならばコーシー列であるので、{\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}}{X} のコーシー列である。{a_n\in A} より {\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}}{A} のコーシー列でもある。したがって、{A} は完備より、{\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}} はある点 {a\in A} に収束する。

{\{a_n\} \to x}     ({n\to \infty})

{\{a_n\} \to a}     ({n\to \infty})

 

ここで、我々は {x = a\in A} であると主張する。実際、{A}距離空間であるため、ハウスドルフ空間であるから、収束列 {\{a_n\}} の収束点はただ一つしか存在しないからである*2。したがって、{x\in A} であることが示された。

 

{(\Leftarrow)}

{A}閉集合であるとする。{\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}} を任意のコーシー列とする({a_n\in A})。これが収束列であることを示せばよい。

{\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}}{X} のコーシー列でもある。{X} は完備より、ある点 {a\in X} に収束する。この点は実は {A} に属している。つまり {a\in A} である。実際、{a_n\to a\,\,(n\to \infty),\,\,\,\,a_n\in A\,\, a\in X} であり、これは {a\in\text{Cl}(A)} を意味する。{A}閉集合より、{a\in A} である。

したがって、コーシー列 {\{a_n\}_{n\in\mathbb{N}}} は点 {a\in A} に収束する。つまり、{A} は完備である。

(補題2の証明終わり)

 

 

補題 3

位相空間 {X} 上の有界実数値連続関数の全体からなる集合を {C^*(X)} であらわす。{C^*(X)} の2元 {f: X\to \mathbb{R},\,\, g: X\to \mathbb{R}} に対して、距離 {\rho_*: C^*(X)\times C^*(X)\to C^*(X)}

{\rho_*(f, g): = \text{sup}_{x\in X} |\,f(x) - g(x)\,|} 

と定めると、{\rho_*}{C^*(X)} 上の距離関数となる。つまり、{\langle C^*(X),\,\rho_*\rangle}距離空間である。

このとき、{\langle C^*(X),\,\rho_*\rangle} は完備である。

補題3の証明

関数列 {\{f_n \}_{n\in\mathbb{N}}}{\langle C^*(X),\, \rho_*\rangle} のコーシー列とする。このとき、 {\{ f_n\}_{n\in \mathbb{N}}} が収束列であることを示す。各点 {x\in X} に対して、

{|\,f_n(x) - f_m (x)\,|\leq \rho_*(f_n, f_m)} となるから、 

実数列 {\{ f_n (x) \}_{n\in \mathbb{N}}}{\mathbb{R}} のコーシー列である。したがって、{\mathbb{R}} は完備より、{\{ f_n (x)\}_{n\in \mathbb{N}}} は収束する。この極限値{f(x)} とする。つまり、{f(x):= \lim_{n\to \infty}f_n(x)}

よって、写像 {f: X\to \mathbb{R}} が得られる。

我々の主張はこのとき{f\in C^*(X)} であり、{\{f_n\}_{n\in\mathbb{N}}}{f} に収束するということである。これを示そう。つまり、{f}有界連続関数であり、{\{ f_n \}_{n\in\mathbb{N}}}{f} に収束することを示す。

  ます、{f} が連続であることを示そう。そのために、{\{f_n\}_{n\in\mathbb{N}}}{f} に一様収束であることを示す。そうすれば、補題1より、{f} が連続であることをわかるからである。

 {\{ f_n \}_{n\in\mathbb{N}}}{f} に一様収束であるとは、

{^{\forall}\varepsilon \succ 0,\,\, ^{\exists} n_0(\varepsilon)\in\mathbb{N};\,\,\, ^{\forall}n\geq n_0(\varepsilon),\,\,\, ^{\forall}x\in X\,\,\Rightarrow\,\, |\,f_n(x) - f(x)\,| \prec \varepsilon}

である。

任意の正数 {\varepsilon \succ 0} を取る。{\{ f_n\}_{n\in\mathbb{N}}}{\langle C^*(X),\, \rho_*\rangle} のコーシー列であるから、ある自然数 {n_0\in\mathbb{N}} が存在して、

 

 

補題3の証明終わり

 

以上より存在定理の証明に必要な補題を示した。次回は先ほど書いた証明のアイディアをもとに、厳密な証明を示したいと思う。

 

つづく

 

 

 

僕から以上

*1:ここでは例えば連続であることをcontinuousと英語表記されているが、これには訳がある。たとえ\textを使ったとしても日本語で表記しようとすると少しおかしくなってしまう。対して、英語表記(ローマ字表記)ならば、問題にならない。したがって、ここでは英語表記を使っている。

*2:位相空間 {\langle X, \mathscr{O}\rangle}ハウスドルフ空間であるとは、任意の相異なる2点 {x_1\neq x_2\in X} に対して、{x_1\in U_1\in\mathscr{O},\,x_2\in U_2\in\mathscr{O}} が存在して、{U_1\cap U_2 = \emptyset}が成り立つことである。点列 {\{x_n \}} が点 {a} に収束するとは、点 {a} を含む任意の開集合 {U\in\mathscr{O}} に対して、ある自然数 {n_0} が存在して、{n\geq n_0} に対して {x_n\in U} が成り立つことである。もし、点列 {\{x_n\}} が点 {x_1,\, x_2\in X} で収束するとする。このとき、{x_1 = x_2} であることを示す。そのために背理法を使う。すなわち、{x_1\neq x_2} と仮定して、矛盾を示す。仮定より、ハウスドルフ空間より、点 {x_1} を含む開集合 {U_1} と点 {x_2} を含む開集合 {U_2} が存在して、{U_1\cap U_2 = \emptyset} である。{x_1,\, x_2} はそれぞれ {\{x_n\}} の収束点であるから、ある自然数 {n_1,\, n_2} が存在して、{n\geq n_1\,\,\Rightarrow\,\,x_n \in U_1} かつ {n\geq n_2\,\,\Rightarrow\,\, x_2\in U_2} がそれぞれ成り立つ。したがって、{n_0:=\max\{n_1, n_2\}} とおけば、{n\geq n_0} に対して、{x_n\in U_1} かつ {x_n \in U_2} である。つまり、{x_n\in U_1\cap U_2\neq \emptyset} となり、矛盾。すなわち、{x_1 = x_2} である。距離空間ハウスドルフ空間であることは明らか。