疑念は探究の動機であり、探究の唯一の目的は信念の確定である。

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書評たち: 近代科学の誕生についてのいくつかの本

(改定 Version 2: 2019/03/10)
かつて評者は「近代科学がなぜ西欧で誕生したのか」という問題を考えるためにいくつかの本を読んだ。今回はそのまとめである。
次の3冊4冊を書評する。と言ってもほどんどすべて忘れたし、だからと言ってこれらの本を読み返すことなく軽く読み直した後、さっさと売る。

吉田博司
『ヨーロッパ思想を読み解く 何が近代科学を生んだか』2014
ちくま新書 1083


佐伯啓思
『西欧近代を問い直す 人間は進歩してきたのか』2014
PHP文庫


下田淳
『「棲み分け」の世界史 欧米はなぜ覇権を握ったのか』
NHK出版 1222

「棲み分け」の世界史 欧米はなぜ覇権を握ったのか (NHKブックス)

「棲み分け」の世界史 欧米はなぜ覇権を握ったのか (NHKブックス)

広井良典
『ポスト資本主義 科学・人間・社会の未来』
岩波新書


ただし、数年前に読んだきりであまり覚えていない。

それぞれの本の特色

少し読み直した後に、以下の文章をまとめた。
近代文明(modern civilization)または単に近代(modern age)とは何か。それを定義するとき、それは次の要素から成り立つと考えられる。すなわち、

などである。他にも宗教学的観点からもありうる。進歩史観も入るかもしれない。
こうしたなか、これら諸要素を満遍なく議論しているのが、佐伯の本『西欧近代を問い直す』である。吉田の本『ヨーロッパ思想を読み解く』はタイトル通り少し異なり、西欧哲学史および西欧哲学の入門書である。西欧哲学の延長として近代科学の誕生についても議論される。しかしそれも「西欧は「向こう側」を探求していたから近代科学が誕生した」みたいにさらっと書かれているだけで、近代科学の誕生に至る発展メカニズムは詳細には書かれていない。残りの本は資本主義と近代科学のみを議論している。下田の本『「棲み分け」の世界史』は(少し国家の話もあった気がする。むしろ近代宗教の話があった)、近代科学の誕生と資本主義の誕生の理由・メカニズムを議論している。近代科学と資本主義の関係も話題に上っているが、素人以下の発想しかなかった。近代の世界観の話はなかった。対して、広井の本『ポスト資本主義』は思想史的に議論されていた。近代はこのように考えられてきた。これに対して現代ではこのように考えを修正されるべきだ、みたいな。さらに近代科学と資本主義の関係も議論されていた。特に両者とも「科学に基づく技術(science-based technology)」を議論していた。すなわち科学と資本主義(経済)は技術を介して関係づけられているということである。資本主義は資本を増やすため新しい技術を必要とする。現代では新しい技術は科学なしでは決して得られない。だから、社会は科学を必要とするという議論である。下田は「科学は純粋な好奇心を探求する学問ではない」とまで断言している。
他にも両者とも「科学と資本主義は共に「無限の拡張」を志向する」ということを指摘している。
しかし、社会主義も同じぐらいに近代科学と親和的である。実際、ソ連の科学はアメリカ以上のものもあったぐらいである(冷戦という状況もあるけども)。
近代科学も資本主義も社会主義も近代という同じ時代に生まれた義兄弟みたいなものかもしれない。もしそうならば、社会主義が近代科学と親和的でも頷ける。これらはすべて「理性」という親から生まれている。すなわち、近代とは「人間理性の信奉」と定義することもできるかもしれない。社会主義は計画経済を行うが、それが可能だと考えられるのは人間理性を信奉しているからである。
このような「理性批判」から近代を議論しているのは、例えば西部邁の一派(佐伯・中島岳志・中野剛志)などである。

吉田博司『ヨーロッパ思想を読み解く 何が近代科学を生んだか』

著者独特の用語がいくつか出てくる。「こちら側」「向こう側」「マーカー」などの用語である。東アジア政治思想が専門であり西欧哲学の門外漢である著者独自の視点から書かれた「哲学入門書」である。
各章にはまず「師」と「弟子」の対話(口語)があり、そのあとに解説(文語)がある。
特定の哲学者をボロクソに言っているのは痛快であるともいえる。

感想としてはわかったようなわからないような内容である。「そこまで単純に言っていいのかよ」とも思った。内容も忘れた。

哲学初心者にこれを勧めるのは少し抵抗がある。一度、流し読みしていいと思ったら読めばいいと思う。

佐伯啓思『西欧近代を問い直す 人間は進歩してきたのか』

合理的科学や民主主義や資本主義や基本的人権などについて議論している。
あまり、科学については議論されていない。

感想は特にない。内容は忘れた。いつもの佐伯先生の議論の延長である。

下田淳『「棲み分け」の世界史 欧米はなぜ覇権を握ったのか』

著者の独自の用語「棲み分け」をキーワードに「科学の誕生」や「資本主義の誕生」などを議論している。

感想は特にない。内容は忘れた。

広井良典『ポスト資本主義 科学・人間・社会の未来』

科学と資本主義について思想史的に議論されている。そして来るべき未来における新しい社会像(新しい資本主義と科学)の原理を提示している。
感想は特にない。内容は忘れた。この4冊の中では結構面白いと思う。


以上、簡単な説明であった。これらの本を勧めるつもりはない。
全て面白いといえば面白いし、つまらないといえばつまらないからである。
前に、お勧めしたい新書を思い出したときに、これらの本はまったく浮かび上がらなかったから、所詮私にとってその程度のものだったのだろう。しかし、同じテーマ(近代科学)について様々な観点から学ぶことができて楽しかった。


数学的世界観(自然学)と機械論的世界観(自然学)は同じではない。数学的世界観ならば機械論的世界観を導く。なぜなら数学的世界観は目的論的世界とは合わないからである。だが、逆は必ずしも言えない。すなわち機械論的世界観だったとしてもそれが数学的とはならない。
そして西欧哲学と他の哲学の決定的な違い---すなわち西欧哲学の特徴---とはピュタゴラスからはじまる数学的世界観なのである(そういう直感。まだ論証できないけど)。



僕から以上