疑念は探究の動機であり、探究の唯一の目的は信念の確定である。

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地球温暖化とその解決策について

概要

気候変動問題(地球温暖化問題)についてはさまざまな見解がある。一つは二酸化炭素を含む温室効果ガスが地球の気候に影響を及ぼしており、その原因が人為的であることを事実として認めるかどうかということである。一部にはそれを認めないか認めても過小評価する人達がいる。次に地球温暖化を認めてかつそれは解決すべき問題であるとの立場である。大多数はこの立場であるが、その解決策はさまざまである。一方で環境を守るために資本主義を放棄すべきという極左環境原理主義の立場がある。だが大多数は資本主義を維持しながら、環境問題に対処する立場である。主流派経済学では公共財の問題である環境問題に対して、環境税を導入することは負の外部性の対処として正当化される。だが、それ以上の政府介入を認める立場もある。例えば環境に優しい新しい技術を開発するために政府が企業に補助金を支給することを認める立場がある。さらに政府が出資者として積極的にリスクを取り、クリーンテクノロジーに投資すべきであるという考えもある。地球温暖化問題はこれまでにない困難を伴うが、さまざまな知見を総動員して解決しなければならない。累進的環境税の導入、適切な国際条約の締結、原子力エネルギーの積極的利用などが地球温暖化の解決策の糸口となるだろう。

はじめに

気候変動問題(地球温暖化問題)についてはさまざまな見解がある。次のいくつかの問いでそれぞれの立場が分類できる。

問い1

  • 問い1. 二酸化炭素を含む温室効果ガスが地球の気候に影響を及ぼしており、その原因が人為的であることを事実として認めるか。

もしもNOと答えるならば、それは懐疑派となる。この立場も複数ある。例えば科学的事実そのものを否定する立場と、事実は認めるがたいして影響はないと考える立場である。後者を微温派(lukewarmer)と言われる1。他にも気候変動は起こっているが、その原因が人為的なものではないと考える論者もいる。

本来ならば環境問題は政治的問題(イシュー)ではないはずである。科学的な事実があり、それに対して全員が一丸となって解決するべきものである。だが実際は環境問題は政治的なものとなり、これらの立場の人達は右派が多い。これは一部には民主党アル・ゴアが『不都合な真実』で環境問題を取り上げたことが原因であると言われている。アル・ゴアによって気候変動問題を左派のものだとのレッテルが貼られたのである。むしろそれ以前だと環境問題は右派が主張していたことなのに、と2

だが、大部分の人達は問い1に対して、YESと答える。問題はこれをどう解決するのかということである。ここで環境問題と資本主義の問題となる。というのも「産業革命以来の資本主義の発展により、二酸化炭素を排出続けたことが温暖化の主要な原因である」と考えられているからである。ここで次の問いが生じる。

問い2

  • 問い2. 資本主義は放棄されるべきか。

もしもこの問いに対して、YESと答えるならば、それは環境原理主義者である。 気候正義(climate justice)とも言われる3極左の論者がこの立場である。

この人達も少数派である。大多数は資本主義を肯定しながら、温暖化対策をすることを考える。だが資本主義を前提としていてもその解決策はさまざまである。

問い3

  • 問い3. 気候変動の解決のため政府による積極的介入をするべきか。

これにYESの立場はほぼ社会主義者である。マッツカートはその立場である4。マッツカートはアポロ計画を例とする。アポロ計画は政府が大きな目標(パーパス)を掲げて、それに向けて官民が共同して開発した。同じのように政府が温暖化対策に向けて積極的に指導するべきとの考えである。国家が投資家として、企業家として積極的に民間に投資するべきと主張する。アポロ計画の場合は単に官民共同の技術開発であったが、温暖化対策の場合はそれよりもはるかに難しい課題である。というのも、温暖化対策は単なる技術開発にとどまらず、市民生活のこれまでの習慣を変革する必要性すらもあるからである。だが、温暖化解決のためにはそこまでして政府が介入しなければならないとマッツカートは言う。マッツカートは「SGDs万歳!」の人で、使命感に燃えているのは結構なことであるが、果たして多くの人達が彼女のパーパスに付いてくるのか疑問に思う。実際、最近のEUの選挙結果を見ると、欧州緑グループ・欧州自由連盟(中道左派環境政党)が71議席から51議席に下がったが5、これはEUの環境対策への反発を表しているのかもしれない。EUの環境問題への対応が後退するのかもしれない。

この立場も主流派経済学とはかなり離れている。次の2つの問いは比較的主流派経済学者も認める。

問い4

YESの立場はアギヨン・ブネルである6。理由はクリーンな新しいイノベーションを起こすためには単に環境税だけでは不十分だからである。というのも、開発には経路依存性という制約が生じるからである。例えば既にガソリンエンジンを開発している自動車会社は新たなイノベーションを起こそうとするとき、これまでの経験をもとにガソリンエンジンの改良を試みやすく、全く新たな電気エンジンを開発するインセンティブがない。このような依存性から脱却するのはビジネスの論理ではとても難しいので、グリーンイノベーションに対して補助金による誘導をするのである。

問い5

公害や二酸化炭素の排出などは負の外部性である。外部性とは「経済活動により、第三者にスピルオーバーする費用または便益が生まれることである。」 7 8

正統派経済学者、つまり、大方の経済学者は温暖化対策において、カーボンプライシングを支持している。少なくともその経済的根拠が存在する。だが、気候変動問題はある特別な事情がある。それは厄介な共有地問題であるということだ。

共有地の悲劇

地球温暖化問題はいくつかの特徴がある9。一つは温室効果ガスは見えないということである(顕著性)。公害スモッグならば、目に見えて被害がわかるので、恐怖を感じやすい。だが、対して温室効果ガスは無色透明なので、恐怖を感じづらい。したがって「対策しよう」とキッカケが明確になりづらい。さらに目標達成も不明瞭である。アポロ計画ならば「人を月に送って、さらに安全に地球に帰還する」ということならば目標は明確である。だが、「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」といっても、その目標は明確ではない。達成感がない。

もう一つは共有地の悲劇である。例えばある共有地で牛を放牧している農民達がいるとする。それぞれの農民は自分の群れの数を増やすインセンティブが働く。しかしその結果として牛の総数が増えすぎるとやがて餌となる牧草が食べ尽くされて全農民の牛が全滅する。

このことが気候変動対策においても生じる。一つの家族や一つの会社や一つの国家が気候変動対策をおこなって、温室効果ガスの排出量を減らしても他の家族や社会や国家が温室効果ガスの排出量を増やせば意味がない。だが、各国が一致して排出量の削減をするのは難しい。アメリカは「中国やインドは排出量を減らさないのに、なぜアメリカが減らさなければならないのか」と考えるし、逆に中国とインドは「そもそも他の豊かな国が地球温暖化問題を生んだのになぜ我々が積極的に排出量を減らさなければならないのか」と考える。

共有地の悲劇を回避する方法の一つは強制力を働かせることである。国家権力がその放牧地を管理して農民に対して規制をかける。そしてその規制を破る農民がいれば、罰を与えるのである。

だが、気候変動対策が厄介なものであるのは、国際社会にはそのような強制力がないからである。すべての国が気候変動の条約を結び、温室効果ガスの削減目標を決めたとしよう。しかしもしある国家が削減目標を破っても、いかなる国も罰を与えることができないのである。

気候変動問題を含む環境問題にはしばしばこのような特有の問題があるので、各国を支配する世界政府や各国が同時に変革する世界同時革命に繋がりやすい。つまり、「②環境原理主義者」が期待(希望)するのはこの厄介な特徴のためである。

だが、これらの発想は早計である。確かに行動経済学は万能ではない。ナッジでこの難問をサクッと解決できるわけではない。しかし行動経済学の知見が解決の手がかりとなる10

もしもみなさんが、「低コストのナッジを使えばこの問題はなくなるので心配しなくていいですよ」と言ってもらえると期待してこの章を読んでいるとしたら、がっかりさせることになる。これまでたびたび強調してきたように、軽い介入であらゆる問題を解決できるわけではない。

ナッジでこの問題を解決できるわけではないのは確かだが、ナッジにできることはあるし、できることはすべてやらなければいけない。  また、気候変動を地球規模の選択アーキテクチャー問題として考えることも役に立つ。どうすれば問題を前進させられるかを理解するには、心理学と行動経済学の知見が助けになる。

行動経済学には公共財ゲームというのがある。この結果によるとたとえ強制力を持たない状況でも人は協力的になり得ることを示唆している。ただし条件付き協力者として。

私の考え

私はリバタリアン寄りの自由主義者であるので、「④主流派経済学者」の分類となる。環境税を含むピグー税を支持するが、最初の税率は小さくして、徐々に上げるものとするべきであると考える(具体的な税率や期限の意見はない)11。ただし低所得者の負担が増えないように支援するべきである12

また日本のような地震大国であっても積極的に原発を利用するべきと考える。理由は原発が安定的な低炭素エネルギー資源であるからである。さらに途上国に原発技術を輸出して経済発展を支援するべきとも考える13補助金に対しては否定的であるが、環境税がグリーンイノベーション補助金のみに使われると明確にできるならば支持できるかもしれない。また政府主導のイノベーション研究機関(DARPA)を創設するべきだとも考えている(実際は日本版DARPAが開始された14)。




僕から以上


  1. ピンカー『21世紀の啓蒙(上)』ch.10 環境問題は解決できる問題だ
  2. ピンカー『21世紀の啓蒙(下)』ch.21 理性を失わずに議論する方法
  3. ピンカー『21世紀の啓蒙(上)』ch.10 環境問題は解決できる問題だ
  4. マッツカート『ミッション・エコノミー:国×企業で「新しい資本主義」をつくる時代がやってきた』
  5. 欧州議会選挙2024 2つの「疲れ」表出と2つの域外脅威への対抗 Accessed 2024/06/30
  6. アギヨン・ブネル『創造的破壊の力―資本主義を改革する22世紀の国富論
  7. アセモグル・レイブソン・リスト『ミクロ経済学』ch.9.1 外部性
  8. 外部性をまだ私は理解していないから、単に外部性の説明箇所を引用しているのみである。またグリーンイノベーション補助金も正の外部性であり、ピグー補助金としてみなすこともできるかもしれない。ただ『ミクロ経済学』では正の外部性の例では所有する土地の美観をよくすることと教育が挙げられていて、グリーンイノベーションには言及がない。なので、私自身がグリーンイノベーションが正の外部性なのかまだ判断できない。
  9. セイラー・サンスティーン『NUDGE実践行動経済学完全版』ch.14 私たちの地球を救え--これからのナッジ活用、「温室効果ガスは絶対に減らすべき」なのに、取り組みがいっこうに進まない理由
  10. Ibid
  11. 『NUDGE実践行動経済学完全版』ch.14 グリーン税--「払いたくなきゃ、二酸化炭素を減らしなさい」
  12. Ibid
  13. ピンカー『21世紀の啓蒙(上)』ch.10 環境問題は解決できる問題だ
  14. 防衛装備研究の新組織「イノベーション研究所」、半数は民間から登用…100人態勢で今秋発足 Accessed 2024/06/30