疑念は探究の動機であり、探究の唯一の目的は信念の確定である。

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書評: ポパー『果てしなき探求 知的自伝』

概要

20世紀の科学哲学者であるカール・ポパー(1902年 - 1994年)の自伝。知的自伝と称しているので、ポパー自身の思想的発展がメインーさらに社会哲学・社会哲学よりも本来の科学哲学の思想的発展ーとなっていて、プライベートなことはあまりない。

感想

この前のゴールデンウィーク(GW)中に『果てしなき探求』を購入して、GW中に読んでいた。しかし途中で飽きて止めてしまった。

本書を買う理由は次の疑問を持っていたからである。ポパーの『開かれた社会とその敵』にはいわゆる負の功利主義(Negative Utilitarianism)を議論していた1。それは通常の功利主義である「最大多数の最大幸福」ではなく、「最大多数の最小不幸」という原理である。つまり「戦争や飢饉や貧困などの不幸をできるだけ最小にするべきだ」という格率である。

しかしこの考え方を少し広げるといわゆる反出生主義(Antinatalism)2につながる。つまり「不幸をできるだけ減らすことが大事だが、それならばそもそも人類は生まれなければ不幸に遭うことはなくなるはずだ」と容易につながるだろう。

ポパーは20代に結婚したが、結婚するときに「子供を作らない」ことを決めた3

Popper married Josephine Anna Henninger (“Hennie”) in 1930, and she also served as his amanuensis until her death in 1985. At an early stage of their marriage they decided that they would never have children. 

ポパーはなぜ結婚したにも関わらずあえて子供を作らないように決めたのか? それはポパー自身に反出生主義の考えがあったからではないか? そう推測していた。

『開かれた社会とその敵』や『歴史主義の貧困』にはさまざまなアイディアがある。それらをどのように考えてきたのか気になった。


このような訳でポパーの自伝を読もうと決めた。

だが結局はあまり得られるものはなかった。夫人とのことはほとんど言及されていないし、言わずもがな「どうして子供を産まなかったのか」ということは一切書かれていなかった。また社会哲学や道徳哲学の話は少なかった。メインは本来の専門である科学哲学であった。有名なウィトゲンシュタインとの「火かき棒事件」も下巻に書かれていた。

しかしこれまで知らなかったことも書かれていた。特に本質主義の問題を「私の最初の哲学的失敗」と考えていたことである。


ポパーの信念や哲学がわかりやすく書かれているのでポパー入門書としていい本だと思う。

僕から以上


  1. 『開かれた社会とその敵 第一部』第9章
  2. 反出生主義とは「誕生は生まれてくる人にとって常に害であるとし、人類は生殖をやめて段階的に絶滅するべきだ」との考えである。
  3. https://plato.stanford.edu/entries/popper/