次行列 の対角化についてまず最も簡単なケースは固有値がすべて異なっているときである。そのときは行列 が存在して
が成り立つ。 は固有値である。
しかし、一般に固有値が重複しているとき問題は複雑となる。結局それはJordan標準形の議論になる。
しかし、応用上非常に使われる特別な行列である実対称行列(Hermite行列)の場合、たとえ固有値が重複していても上の定理のように単純に対角化できる。それは次のような定理である。
定理
次実対称行列 に対して、 次直交行列 が存在して、
が成り立つ。
ここで、 は転置行列であり、 は固有値である。
この定理を帰納法で証明する。たしか有名どころの線形代数の本はこの定理をかなり遠回りに(抽象理論を定式化してから)証明している。より直接的に初等的に証明する。
今日もノートの処理である。
証明
帰納法で示す。
のときは明らか。
次の実対称行列に対して、上の定理が成り立つと仮定する。このとき、 次対称行列に対しても成り立つことを示せばよい。
を 次実対称行列として、 を の1つの固有値として、 を の固有ベクトルとする。つまり、 とする。 ここで固有値が存在することは、実対称行列の固有値が常に実数であることからわかる。
まず、ベクトル を正規化する。 より、 とおく。ただし、
は内積であり、 はノルム(長さ)である。すると、 のノルムは1であり、もまた固有ベクトルである。
直線 の直交補空間 を考え、その正規直交基底 を取る。このような正規直交基底が存在することは容易に理解できる。なぜならこの直交補空間には基底が存在してその基底に対して、Gram-Schmidt直交化すればよい。
はまた の正規直交基底であり、行列 は直交行列である。
であり、特に のとき、 は実対称行列であるため、
であり、正規直交基底であるため、これは のときは、 であり、それ以外は である。
よって、行列 は
となる。ここで は 次実対称行列である。( であるため)。
さて、仮定よりある 次直交行列 が存在して、
が成り立つ。ここで は の固有値である。行列
は直交行列である。(なぜなら、 と が直交行列であるから)。
よって、行列 を計算すれば、容易に、
となることがわかる。
あとは、 が の固有値であることを示せばいい。
(了)
僕から以上