疑念は探究の動機であり、探究の唯一の目的は信念の確定である。

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コイクワライザーについて: なぜコイクワライザーが商集合の一般化なのか?

概要
圏論においてコイクワライザー(余等化子)が定義される。コイクワライザーは商集合の一般化と言われるが、その理由は、イクワライザーの場合と比べて、明確に記述されていない。今回は、アーベル群や {R\textrm{-}} 加群やベクトル空間つまりアーベル圏に関して、コイクワライザーが剰余群の一般化であることを示す。そしてイメージ {\textrm{Im}(f)} やコイメージ {\textrm{Coim}(f)}圏論的に定義する。

序論

圏論においてイクワライザー・コイクワライザーが定義される。それは次のようなものである。

定義(イクワライザー・コイクワライザー)
{\mathscr{A}} の射の組み {A\overset{f}{\underset{g}{\rightrightarrows}}B} に対するイクワライザー(equalizer)とは、対象 {E} と射 {e: E\to A} の組み {(E, e)} であり、それが次を2つを満たすものである。
(1) {f\circ e = g\circ e}
(2) {f\circ h = g\circ h} を満たす任意の射 {h: X\to A} に対して、{e\circ \overline{h} = h} となるただ一つの射 {\overline{h}: X\to A} が存在する。

双対的にコイクワライザーが定義される。すなわち、圏 {\mathscr{A}} の射の組み {A\overset{f}{\underset{g}{\rightrightarrows}}B} に対するコイクワライザー(coequalizer)とは、対象 {C} と射 {c: B\to C} の組み {(C, c)} であり、それが次を2つを満たすものである。
(1) {c\circ f = c\circ g}
(2) {h\circ f= h\circ g} を満たす任意の射 {h: B\to X} に対して、{\overline{h}\circ c = h} となるただ一つの射 {\overline{h}: C\to X} が存在する。

可換図式があったほうがわかりやすいが今は省略。

このイクワライザーとコイクワライザーの具体例はなんなのか。多くの圏論の教科書では当然書かれるべきことであるが、実はイクワライザーはちゃんと書いているが対してコイクワライザーには詳細には書かれていない。または誤魔化しながら書かれている。にもかかわらず教科書では「コイクワライザーは商集合の一般化である」との結果しか書かれていない。これではかなり天下り的に理解せざるを得なくなってしまうのである。すなわち、一方で
圏論的に定義されたコイクワライザーという抽象的・普遍的な概念」と他方で「これまでわれわれが集合論的に慣れ親しんだ商集合や剰余群(商群)などの概念」とのギャップを感じてしまうのである。他方でイクワライザーについてはそのようなことは感じられない(後述)。

私は今回の記事で「コイクワライザーはこれまで勉強してきた集合論的商集合の一般化である」ということを不完全ながら(正確に言えばアーベル群に限定して)、議論していきたいと思う。
参考になれば。

今回はアーベル群のみを議論する。というのも他の {R\textrm{-}} 加群やベクトル空間つまりアーベル圏でも同様だからである。アーベル群で議論したことはそのままアーベル圏に一般化できる。そのような連続性を意識的に書く。

まずアーベル群の定義から始まって基本的なことをまとめる。カーネル {\textrm{Ker}(f)} やイメージ {\textrm{Im}(f)} を定義してさらに剰余群(商群) {A/B} を定義する。そして、圏論的に定義するために、いくつかの定理を示す。そしてイクワライザーとコイクワライザーがそれぞれカーネルとコカーネルの一般化であることを示す。最後にアーベル圏を定義して終える。

アーベル群について基礎知識を持っているならば適宜省略しながら読まれたし。

アーベル群の基礎知識

まずはアーベル群の基礎知識をまとめよう。

アーベル群と準同型写像

まずはアーベル群の定義と準同型写像である。

定義(アーベル群・準同型写像)
集合 {A}アーベル群であるとは、演算 {+: A\times A\to A} があり、{x, y\in A} に対して、{x + y\in A} と書くと、それらが次の4つを満たすことである。
(1) 任意の要素 {x, y, z\in A} に対して、
{x + (y+ z) = (x + y) + z}
が成り立つ(結合律)。

(2) ある要素 {0\in A} が存在して、任意の要素 {x\in A} に対して、
{x + 0 = 0 + x = x}
が成り立つ(単位元の存在)。

(3) 任意の要素 {x\in A} に対して、
{x + (-x) = (-x) + x = 0}
となる要素 {-x\in A} が存在する(逆元の存在)。

(4) 任意の要素 {x, y\in A} に対して、
{x + y = y + x}
が成り立つ(可換律)。


アーベル群間の写像 {f: A\to B}準同型写像であるとは、任意の要素 {x, y\in A} に対して、
{f(x + y) = f(x) + f(y)}
が成り立つことである。
要は準同型写像とは構造を保つ写像のことである。


アーベル群の圏とは対象がアーベル群であり射が準同型写像の圏である。

アーベル群(abelian group)は可換性 (4)が成り立つが、単なる群(group)は(1) ~ (3)のみが成り立つ。この可換性が成り立つかどうかということは瑣末なことと思われるかもしれないが、実は全くそうでないことがそのうちわかるであろう。この可換性が決定的であることがそのうちわかるであろう。

準同型写像 {f: A\to B} に対して、{f(0) = 0} および {f(-x) = -f(x)} が容易にわかる。
実際、{f(0) + 0 = f(0) = f(0 + 0) = f(0) + f(0)}
より、両辺に {-f(0)} を足せば、{f(0) = 0} を得る。
さらに、{f(x) + f(-x) = f(x + (-x) ) = f(0) = 0 = f(x) + (-f(x) )}
より、{f(-x) = -f(x)}
である。

任意のアーベル群 {A, B} に対して、自明な準同型写像 {0: A\to B} が存在する。つまり、{0(x) = 0} として定義された写像 {0: A\to B}準同型写像である。
実際、任意の要素 {x, y\in A} に対して、
{0(x + y) = 0 = 0 + 0 = 0(x) + 0(y)}
であるから、{0: A\to B}準同型写像である。この自明な準同型写像 {0: A\to B}ゼロ写像という。

部分アーベル群

次にアーベル群の部分アーベル群を定義しよう。

定義(部分アーベル群)
アーベル群 {A} の部分集合 {B\subset A}部分アーベル群であるとは、任意の要素 {x, y\in B} に対して、
(1) {x + (-y) \in B}
(2) {x + y = y + x}
が成り立つことである。

部分アーベル群のなかで特に重要なのがイメージ {\textrm{Im}(f)}カーネル {\textrm{Ker}(f)} と剰余群 {A/B} である。以下にそれらをひとつずつ確認していこう。

イメージ(像)

準同型写像 {f: A\to B} が与えられているとする。このとき {f}イメージ {\textrm{Im}(f)} とは、
{\textrm{Im}(f) = \{ f(x)\,|\, x\in A\}\subset B}
である。
これは部分アーベル群である。
実際、{y_1 = f(x_1), y_2 = f(x_2)\in \textrm{Im}(f)} に対して、({x_1, x_2\in A})
{y_1 + (-y_2) = f(x_1) + (-f(x_2) ) = f(x_1) + f(-x_2) = f(x_1 - x_2)}
であり、{x_1 - x_2\in A} より、{y_1 + (-y_2)\in \textrm{Im}(f)} である。
さらに、
{y_1 + y_2 = f(x_1) + f(x_2) = f(x_1 + x_2)} であり、{x_1, x_2\in A} はアーベル群であるため、{x_1 + x_2 = x_2 + x_1} より、
{y_1 + y_2 = f(x_1 + x_2) = f(x_2 + x_1) = f(x_2) + f(x_1) = y_2 + y_1}
である。
よって、イメージ {\textrm{Im}(f)} は部分アーベル群である。

今回は使わないが、準同型写像 {f: A\to B}全射であることは {\textrm{Im}(f) = B} であることと同値である。

カーネル(核)

準同型写像 {f: A\to B} が与えられているとする。このとき {f} {\textrm{Ker}(f)} とは、
{\textrm{Ker}(f) = \{x\in A\,|\, f(x) = 0 \}\subset A}
である。
これも部分アーベル群である。{x_1, x_2\in \textrm{Ker}(f)} とする。つまり、{f(x_1) = 0,\, f(x_2) = 0} とする。このとき、{x_1 + (-x_2)\in \textrm{Ker}(f)} を示せばいい。つまり、{f(x_1 + (-x_2) ) = 0} を示せばよい。実際、
{f(x_1 + (-x_2) ) = f(x_1) + f(-x_2) = f(x_1) - f(x_2) = 0 - 0 = 0}
さらに、{x_1, x_2} はアーベル群 {A} の要素より {x_1 + x_2 = x_2 + x_1} である。したがって、{x_1 + x_2\in \textrm{Ker}(f)} を示せばいい。実際、
{f(x_1 + x_2) = f(x_1) + f(x_2) = 0 + 0 = 0} より、{x_1 + x_2\in\textrm{Ker}(f)} である。

今回は使わないが、準同型写像 {f: A\to B}単射であることは {\textrm{Ker}(f) = \{ 0\}} であることと同値である。

最後に剰余群を定義するがそれは節を改めて詳しく議論しよう。

剰余群

剰余群または商群を定義するためには、まず商集合を定義する。そのあとに商集合に演算を導入してそれが群であることを示す。

商集合

定義(同値関係・商集合)
集合 {S} 上の関係 {x\sim y} ({x, y\in S}) が同値関係であるとは、次の(1) ~ (3)を満たすものである。
(1) {x\sim x}
(2) {x\sim y} ならば {y\sim x}
(3) {x\sim y} かつ {y\sim z} ならば {x\sim z}

このとき、
{\begin{bmatrix} x \end{bmatrix} = \{ s\in S\,|\, x\sim s\} }
を定義する。さらに、
{S/\sim = \{ \begin{bmatrix} x \end{bmatrix}\,|\, x\in S\}}
を同値関係 {\sim} による {S}商集合という。

同値関係 {\sim} に関して次の重要な性質がある。すなわち、
{\begin{bmatrix} x \end{bmatrix}\cap \begin{bmatrix} y \end{bmatrix} = \emptyset}
または
{\begin{bmatrix} x \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} y \end{bmatrix}}
である。
実際、任意の要素 {x, y\in S} に対して、{\begin{bmatrix} x \end{bmatrix}\cap \begin{bmatrix} y \end{bmatrix} = \emptyset} または、{\begin{bmatrix} x \end{bmatrix}\cap \begin{bmatrix} y \end{bmatrix} \neq \emptyset} である。
{\begin{bmatrix} x \end{bmatrix}\cap \begin{bmatrix} y \end{bmatrix} \neq \emptyset} とする。すなわち、{z\in \begin{bmatrix} x \end{bmatrix}\cap \begin{bmatrix} y \end{bmatrix} } となる要素が存在するとする。
このとき、{\begin{bmatrix} x \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} y \end{bmatrix} } を示せばよい。
{s\in \begin{bmatrix} x \end{bmatrix}} とする。{s\in \begin{bmatrix} y \end{bmatrix} } を示す。つまり、{x\sim s} ならば {y\sim s} を示せばよい。 {z\in \begin{bmatrix} x \end{bmatrix}\cap \begin{bmatrix} y \end{bmatrix} } より、{x\sim z} かつ {y\sim z} より、同値関係の性質(2)と(3)より、{x\sim y} である。{x\sim s} かつ {x\sim y} より {y\sim s} である。
同様に、{\begin{bmatrix} y \end{bmatrix}\subset \begin{bmatrix} x \end{bmatrix} } が示される。

商集合によって元の集合が漏れなくダブりなく分類することができる。

アーベル群の剰余群

これをもとにアーベル群の剰余群を定義しよう。アーベル群 {A} と部分アーベル群 {B\subset A} があるとする。このとき、剰余群を定義しよう。そのために {A} 上の同値関係 {\sim} を次のように定義する。
任意の要素 {x, y\in A} に対して、
{x\sim y\overset{\textrm{def}}{\iff} x - y\in B}
と定義する。実際 {\sim} は同値関係である。任意の要素 {x\in A} に対して、{x - x = 0\in B} より、{x\sim x} である。
次に {x \sim y} とする。つまり、{x - y\in B} とする。このとき、{y - x = -(x - y)\in B} より {y\sim x} である。最後に {x\sim y} かつ {y\sim z} とする。つまり、{x - y\in B} かつ {y -z \in B} とする。このとき
{x - z = (x -y) + (y - z)\in B} であるから {x\sim z} である。

よって、さきほどの議論から商集合 {A/\sim} が構成できる。この商集合を {A/B = A/\sim} と書き直そう。

さらにこの商集合 {A/B} に演算を導入して群を構成しよう。
{\begin{bmatrix} x \end{bmatrix},\,\begin{bmatrix} y \end{bmatrix}\in A/B} に対して、
{\begin{bmatrix} x \end{bmatrix} + \begin{bmatrix} y \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} x + y \end{bmatrix}}
で定義する。
ここで注意しなければならないのはこの演算の定義がwell-definedであることを示さなければならない。

このwell-definedは実は私はあまりよくわからない。
これは要は「うまく定義されている」ということを言っている。例えば、整数の集合を2で割ったら、奇数と偶数となる。つまり、{\mathbb{Z} = \{\textrm{奇数},\,\,\textrm{偶数}\}} となる。このとき、奇数+奇数 = 偶数のように演算を導入したい。しかしそのときに、どのような奇数同士でも偶数となることを示さなければ、その演算はうまくいっているとは言えない。例えば、ある奇数同士を選んだら、うまく偶数となるが、別の奇数同士を選んだら偶数ではない、となってはいけない。そのことを確認しなければならない。別の言い方をすれば、奇数 + 奇数 = 偶数はそれらの代表元に依らないことを示さなければならない。だいたいこのような感じなのだが、自分本人がまだしっくりきていない。このような手続きはいかにも集合論独自の問題であり、対して圏論的にはこのような問題はそもそもない(パラダイム間の違いによる解決されるべき問題の有無!)。だからその点では圏論の方が楽とも言える。

同じことは一般の剰余群の場合も同じである。そこで実際にこの演算がwell-definedであることを示す。つまり、{\begin{bmatrix} x_1 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} y_1 \end{bmatrix},\,\, \begin{bmatrix} x_2 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} y_2 \end{bmatrix}} ならば、{\begin{bmatrix} x_1 + x_2 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} y_1 + y_2 \end{bmatrix}} であることを示す。
これは、さきほど示した同値関係の性質より、{x_1\sim y_1} かつ {x_2\sim y_2} ならば、{x_1 + x_2 \sim y_1 + y_2} を示せばよい。
つまり、{x_1 - y_1\in B} かつ {x_2 -y_2\in B} ならば、{(x_1 + x_2) - (y_1 + y_2)\in B} を示せばよい。実際、
{(x_1 + x_2) - (y_1 + y_2) = x_1 + x_2 - y_1 - y_2} であり、アーベル群の可換性の公理より、{(x_1 + x_2) - (y_1 + y_2) = (x_1 - y_1) + (x_2 - y_2)} となる。したがって、仮定 {x_1 - y_1\in B} かつ {x_2 -y_2\in B} より {(x_1 + x_2) - (y_1 + y_2)\in B} であることがわかる。

あとは {A/B} が実際にアーベル群であることを示せばよいが、それは容易に示される(普通にアーベル群の公理を満たしていることを確認すればよい)。これを {A}{B} による剰余群(quotient group)という。

特別な剰余群: コカーネル・コイメージ

先ほどは一般の部分アーベル群の剰余群を議論した。ここで特別な剰余群を導入することができる。
{f: A\to B}準同型写像とする。{f} のイメージ {\textrm{Im}(f)\subset B} は部分アーベル群より、剰余群 {B/\textrm{Im}(f)} が構成される。さらに、{f}カーネル {\textrm{Ker}(f)\subset A} もまた部分アーベル群より、剰余群 {A/\textrm{Ker}(f)} が構成される。これらをそれぞれ {f}カーネルおよびコイメージという。
{\textrm{Coker}(f) = B/\textrm{Im}(f)}
{\textrm{Coim}(f) = A/\textrm{Ker}(f)}

普遍性への飛翔

ホモロジー代数とは言うなればカーネルやイメージの織りなす代数である。したがって、一般のアーベル圏上で同様にホモロジー代数を議論するためには、カーネルなどを圏論的に定義しなければならない。すなわち要素によってではなく普遍性によって概念を定義し直さなければならない。カーネルの定義はそれほど難しくないが、コカーネルやイメージはそうではない。それらを圏論的に定義するため、いくつかの定理を見ていこう。

その前に、のちの圏論上の一般化のために、簡単な記号を導入しよう。準同型写像 {f: A\to B} に対して、{\textrm{Ker}(f)\subset A} である。これは包含写像 { \textrm{Ker}(f)\to A} が存在していると考えることができる。この包含写像{\textrm{ker}(f)} と書こう。すなわち、
{\textrm{ker}(f): \textrm{Ker}(f)\to A}
{\textrm{ker}(f)(x) = x}
と定義しよう。
明らかに包含写像 {\textrm{ker}(f)}単射である。
同様に {B} から {\textrm{Coker}(f) = B/\textrm{Im}(f)} への標準的な写像{\textrm{coker}(f)} と書こう。すなわち、
{\textrm{coker}(f): B\to \textrm{Coker}(f)}
{\textrm{coker}(f)(x) = \begin{bmatrix}x \end{bmatrix}}
と定義しよう。明らかに {\textrm{coker}(f)}全射である。

以下では {f: A\to B} をアーベル群の間の準同型写像とする。

カーネルの普遍性

カーネル {\textrm{Ker}(f)} は次のような普遍性を持つ。

定理 1(カーネルの普遍性)
{\textrm{Ker}(f)\overset{\textrm{ker}(f)}{\to} A\overset{f}{\underset{0}{\rightrightarrows}} B}
に対して、次の2つの性質が成り立つ。
(1) {f\circ \textrm{ker}(f) = 0 = 0\circ \textrm{ker}(f)}
(2) {f\circ h = 0 = 0\circ h} を満たす任意の準同型写像 {h: X\to A} に対して、{\textrm{ker}(f)\circ \overline{h} = h} を満たすただ1つの準同型写像 {\overline{h}: X\to \textrm{Ker}(f)} が存在する。

証明は容易である。
証明
(1) {f\circ \textrm{ker}(x) = 0} を示せばよい。{x\in \textrm{Ker}(f)}{f(x) = 0} であるため、
{f\circ \textrm{ker}(x) = f(\textrm{ker}(f) )(x) = f(x) = 0}

(2) {f\circ h = 0 = 0\circ h} を満たす任意の準同型写像 {h: X\to A} を考える。このとき、{\varphi: X\to \textrm{Ker}(f)}{\varphi(x) = h(x)} で定義する。
この定義が実際いいのか確認しなければならない。つまり、{h(x)\in\textrm{Ker}(f)} であることを示さなければならない。すなわち、{f(h(x) ) = 0} を示さなければならない。しかし、仮定 {f\circ h = 0\circ h = 0} より、{f(h (x) ) = 0(x) = 0} であるから、この定義はうまくいっていることがわかる。
明らかに {\textrm{ker}(f)\circ \varphi = h} であり、このような準同型写像はただ1つしかない。
(証明終わり)

この定理は次のことを示している。すなわち、{f}カーネル準同型写像のペア {A\overset{f}{\underset{0}{\rightrightarrows}}B} のイクワライザーであるということである。つまり、カーネルとは特別なイクワライザーであるということである。逆に言えばイクワライザーとはカーネルの一般化であるということである。
したがって、イクワライザーが別名difference kernelと言われても納得できる。容易にわかるように一般の準同型写像の組み {A\overset{f}{\underset{g}{\rightrightarrows}} B} のイクワライザーは {f-g}カーネル {\textrm{Ker}(f - g)} であるから。

カーネルの普遍性

次にコカーネルの普遍性を考えよう。その前に、{\textrm{Coker}(f) = B/\textrm{Im}(f)} について考えよう。
{\begin{bmatrix} x \end{bmatrix} = \{b\in B\,|\, b\sim x\}} であり、同値関係 {\sim} は次のように定義される。
{b\sim x}{b - x\in \textrm{Im}(f)} である。よって、これは {f(a) = b - x} となる {a\in A} が存在することを言う。
特に、{\begin{bmatrix} 0 \end{bmatrix}}
{\begin{bmatrix} 0 \end{bmatrix} = \{ b\in B\,|\, \exists a\in A; f(a) = b\}}
である。
{\begin{bmatrix} 0 \end{bmatrix}} はコカーネル {\textrm{Coker}(f)}単位元であるため、これを改めて {0} と書き直してもよい(というか普通はそうする)。けれども今回はこのままで議論する。

定理 2(コカーネルの普遍性)
{A\overset{f}{\underset{0}{\rightrightarrows}} B\overset{\textrm{coker}(f)}{\to} \textrm{Coker}(f)} に対して次の2つの性質が成り立つ。
(1) {\textrm{coker}(f)\circ f = \begin{bmatrix} 0 \end{bmatrix} = \textrm{coker}(f)\circ 0}
(2) {h\circ f = 0 = 0\circ h} となる準同型写像 {h: B\to X} に対して、{\overline{h}\circ \textrm{coker}(f) = h} となる準同型写像 {\overline{h}: \textrm{Coker}(f)\to X} がただ1つ存在する。

証明はカーネルと比べたら少し難しいかもしれない。
証明
(1) まず任意の要素 {x\in A} に対して、{\begin{bmatrix} 0 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} f(x) \end{bmatrix}} であることに注意しよう。
つまり、{f(x)\sim 0} である。これは明らかである。要はある要素 {a\in A} が存在して {f(a) = f(x)} が成り立つことを言っているが、{a = x} とすればよい。
したがって、
{\textrm{coker}(f) \circ f (x) = \textrm{coker}(f)(f(x) ) = \begin{bmatrix} f(x) \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 0 \end{bmatrix}}
である。
(2) {h\circ f = 0 = 0\circ h} となる準同型写像 {h: B\to X} を考える。このとき、写像 {\varphi: \textrm{Coker}(f)\to X}
{\varphi(\begin{bmatrix} x \end{bmatrix}) = h(x)}
で定義する。これがwell-definedであることを示さなければならない。
つまり、{\begin{bmatrix} x_1 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} x_2 \end{bmatrix}} ならば、{\varphi(x_1) = h(x_1) = h(x_2) = \varphi(x_2)} を示さなければならない。
仮定 {\begin{bmatrix} x_1 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} x_2 \end{bmatrix}} より、{x_1\sim x_2} である。これは {f(a) = x_1 - x_2} となる {a\in A} が存在することを意味する。つまり、{x_1 = f(a) + x_2} である。
仮定 {h\circ f = 0} となる準同型写像 {h} より
{h(x_1) = h(f(a) + x_2) = h(f(a) ) + h(x_2) = 0 + h(x_2) = h(x_2)}
である。よって、{\varphi(x_1) = \varphi(x_2)} である。
{\varphi}{\varphi\circ \textrm{coker}(f) = h} が成り立つただ1つの準同型写像であることは容易にわかる。
{\varphi(\begin{bmatrix} x + y \end{bmatrix}) = h(x + y) = h(x) + h(y) = \varphi(\begin{bmatrix} x \end{bmatrix}) + \varphi(\begin{bmatrix} y \end{bmatrix})}
(証明終わり)

この定理は次のことを示している。すなわち、剰余類 {\textrm{Coker}(f) = B/\textrm{Im}(f)}準同型写像のペア {A\overset{f}{\underset{0}{\rightrightarrows}} B} のコイクワライザーであるということである。つまり、コカーネルは特別なコイクワライザーであるということである。
しかし、カーネルとは異なり、一般の準同型写像のペア {A\overset{f}{\underset{g}{\rightrightarrows}}B} のコイクワライザーは {B/\textrm{Im}(f - g)} であることに注意しよう。

イメージの普遍性

ここまで、カーネルとコカーネルを普遍性によって定式化されることを示した。同様にイメージやコイメージも普遍性によって定義したいのだが、それは容易ではない。
集合論的には {\textrm{Im}(f)} は簡単に定義できたが対して圏論的には難しいのである。したがって、我々は代わりにイメージをカーネルやコカーネルによって定義できるか検討してみて、できるのならばそのようにしてイメージを定義しよう。つまり、集合論的にははじめにイメージを定義してからコカーネルを定義したが、圏論的には逆にコカーネルからイメージを定義するということである。そのようなことができることは次の定理で示唆される。

定理 3(イメージの普遍性)
{\textrm{Im}(f) = \textrm{Ker}(\textrm{coker}(f) )}

証明は容易である。
証明
{\textrm{Ker}(\textrm{coker}(f) ) = \{ b\in B\,|\, \textrm{coker}(f)(b) = \begin{bmatrix} 0 \end{bmatrix}\} }
{= \{b\in B\,|\, \begin{bmatrix} b \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 0 \end{bmatrix}\}}
である。
まず、{\textrm{Im}(f) \subset \textrm{Ker}(\textrm{coker}(f) )} を示す。
{y\in\textrm{Im}(f)} とする。このとき、{\begin{bmatrix} y \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 0 \end{bmatrix}} を言えばいい。
これは{y - 0 \in\textrm{Im}(f)} であることを意味する。明らかに {y - 0 = y\in\textrm{Im}(f)} である。
逆に {\textrm{Ker}(\textrm{coker}(f) )\subset \textrm{Im}(f)} も同様に示される。
(証明終わり)

この定理によって {f} のイメージはコカーネルカーネルとして定義できることを示している。{\textrm{Im}(f) = \textrm{Ker}(\textrm{coker}(f) )}

コイメージの普遍性

定理 4(コイメージの普遍性)

{\textrm{Im}(\textrm{ker}(f) ) = \textrm{Ker}(f)}

すなわち、{\textrm{Coim}(f) = A/\textrm{Im}(\textrm{ker}(f) )}

これは明らかである。
証明
{\textrm{Im}(\textrm{ker}(f) ) = \{\textrm{ker}(f)(x)\,|\, x\in\textrm{Ker}(f)\} = \{ x\,|\, x\in\textrm{Ker}(f)\}}
であるから、
{\textrm{Im}(\textrm{ker}(f) ) = \textrm{Ker}(f)}
である。
(証明終わり)

この定理によって、コイメージはカーネルのコカーネルとして定義できることを示している。
{\textrm{Coim}(f) = \textrm{Coker}(\textrm{ker}(f) )}


今回は詳しく議論しないが、アーベル群の準同型定理より {\textrm{Coim}(f)\overset{\sim}{\to} \textrm{Im}(f)} である。つまりコイメージはイメージと同型であるから、普通はコイメージは使われない。しかし、アーベル圏を定義する際は、この同型が成り立つことを要請する。

定義(アーベル圏)
加法圏 {\mathscr{A}}アーベル圏であるとは、任意の射に対して、カーネルとコカーネルが存在して、さらにコイメージとイメージが同型であることである。

結論

イクワライザーの具体例を考えてみよう。集合の圏 {\textbf{Set}}写像のペア {A\overset{f}{\underset{g}{\rightrightarrows}}B} に対して、
{E = \{ x\in A\,|\, f(x) = g(x)\}}写像 {e: E\to A}{e(x) = x} と定義する。このペア {(E, e)} は容易にわかるように {f}{g} のイクワライザー(等化子)である。
これから、イクワライザー(等化子)という名称がわかる。つまり、{f(x) = g(x)} を満たす {x\in A} の集まりだからである。
イクワライザーは具体的な圏全てに対して同じである。さらに、もしも(アーベル)群の圏のとき、イクワライザー {E}{\textrm{Ker}(f - g)} である。なぜなら、{f(x) = g(x)} ならば、{(f - g)(x) = 0} であるためである。
したがって、イクワライザーは別名difference kernelと言われるがそれはもっともである。
他方で、コイクワライザーはアーベル群の圏に関しては議論したが、集合の圏などでは議論していない。
すなわち、写像のペア {A\overset{f}{\underset{g}{\rightrightarrows}}B} のコイクワライザーの具体例はなんなのかと言うことである。多くの教科書では、{f}{g} から同値関係 {\sim} が生成することができ、その商集合 {B/\sim} がコイクワライザーであると書かれている。しかし、その写像から生成される同値関係がどのように定義されるのか、構成されるのかは詳細には書かれていない。これが問題である。
今回はアーベル群の圏について、{f: A\to B} の剰余群 {B/\textrm{Im}(f)}{f}{0} のコイクワライザーであることがわかる。したがって、ある意味でコイクワライザーが剰余群の一般化であることがわかる。さらにイメージがコカーネルカーネルとして定義して、コイメージがイメージのコカーネルとして定義することによって、圏論的に定義できることがわかった。

イクワライザーおよびコイクワライザーの存在は圏論の極限において決定的に重要なので、具体例をちゃんと理解しなければならないが、集合の圏や位相空間の圏や群の圏に関しては、すなわち一般のコイクワライザーを私はまだ理解していない。それを理解することが次の目標である。
すなわち

  1. 写像 {f}{g} のペアから構成される同値関係を理解して、商集合がコイクワライザーであることを示す。同様に位相空間の圏や群の圏のコイクワライザーを示す。
  2. さらに、アーベル群のとき準同型写像 {f}{0} のペアから構成される同値関係から導出される剰余群と {B/\textrm{Im}(f)} が一致していることを示す。

である。

追記(2019/02/13)

一般に、アーベル群 {A} の部分アーベル群 {B\subset A} に対して、要素 {x, y\in A} の同値関係 {\sim}
{x\sim y\overset{\textrm{def}}{\iff} x - y\in B}
で定義する。この関係は同値関係である。
{\begin{bmatrix} x \end{bmatrix} = \{ a \in A\,|\, x\sim a\} = \{ a\in A\,|\, x - a\in B\}}
である。特に、{\begin{bmatrix} 0 \end{bmatrix} = \{a\in A\,|\, a\in B\} = \{a\in B\}}
である。このとき、剰余群 {A/B} は次の定理が成り立つ。
{B\overset{\textrm{inclusion}}{\underset{0}{\rightrightarrows}}A \overset{q}{\to} A/B}
に対して、
(1) {q\circ \textrm{inclusion} = \begin{bmatrix} 0 \end{bmatrix}}
(2) {h\circ \textrm{inclusion} = 0 = h\circ 0} となる準同型写像 {h: A\to X} に対して、{\overline{h}\circ q = h} となるただ1つの準同型写像 {\overline{h}: A/B\to X} が成り立つ。

実際、{x\in B} に対して、{x\sim 0} つまり、{x - 0 = x \in B} より
{\begin{bmatrix} x \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 0 \end{bmatrix}} が成り立つ。よって、
{q\circ\textrm{inclusion}(x) = q(x) = \begin{bmatrix} x \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 0 \end{bmatrix}}
である。
さらに、{h\circ \textrm{inclusion} = 0 = h\circ 0} となる準同型写像 {h: A\to X} に対して、写像 {\varphi: A/B\to X}
{\varphi(\begin{bmatrix} 0 \end{bmatrix}) = h(x)}
で定義する。
この準同型写像がwell-definedであることは明らかである。すなわち、{\begin{bmatrix} x_1 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} x_2 \end{bmatrix}} ならば、
{\varphi(\begin{bmatrix} x_1 \end{bmatrix}) = h(x_1) = h(x_2) = \varphi(\begin{bmatrix} x_2 \end{bmatrix})}
が成り立つ。
実際、{\begin{bmatrix} x_1 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} x_2 \end{bmatrix}} ならば、{x_1\sim x_2} である。つまり、{x_1 - x_2 \in B} である。よって、{h} の仮定より、
{h(x_1 - x_2) = h(\textrm{inclusion}(x_1 - x_2) ) = 0} である。つまり、{h(x_1) = h(x_2)} である。
{\varphi} が、{\varphi\circ q = h} となるただ1つの準同型写像であることは明らかである。


準同型写像 {f: X\to Y} が与えらとすると、{\textrm{Im}(f)\overset{\textrm{im}(f)}{\to} Y}{\textrm{Ker}(f)\overset{\textrm{ker}(f)}{\to} X} に対して、コイクワライザー {\textrm{Coker}(f) = Y/\textrm{Im}(f)}{\textrm{Coim}(f) = X/\textrm{Ker}(f)} がそれぞれ得られる。





僕から以上