概要
来るべき未来における新たな社会について私の考えの概要を述べる。まだアイディアに過ぎず、これから研究しなければならないが、アイディアは以下の通りである。
近い将来人工知能(Artificial Intelligence: AI)がより発展することによって、我々は多くの仕事を失うことになる。これは全員が失業者となる未来である。全員が失業するので、全員に失業手当を充てる。つまり全員に一定の金額を給付するのである。これは基本所得制(Universal Basic Income: UBIまたは単にBI)と呼ばれる制度である。これは貧困を解決する方法である。
全員に一定金額を支給する代わりに、これまでの社会保証制度を抜本的に変える。障害者手当などの一部の制度を除きほとんどの社会保障制度を廃止する。年金制度や医療費控除や非営利法人に支払われる公金などである。そしてそれに関連する官僚機構の解体である。
税の目的はBIの財源と広い意味での国防—警察や軍隊やサイバーなど—のためのみである。
近い将来、我々はあくせく働く必要がなくなる。というよりもそのように働くことができなくなる。これは脱労働社会の到来である。だが労働時間がなくなることにより、今後人々はいかに余暇を過ごすのかということが問題となるのではないか。これがケインズが1930年に『孫のための経済的可能性』で示唆した懸念である。「2030年には週15時間しか働かなくなり、これからは余暇の使い方が問題となる」1そう考えていた。
これまで労働として費やしてきた時間の代わりに、我々は政治をおこなうのである。つまり職業的政治家はこの世から消え去り、全員が政治家となるのである。それを可能にするのがデジタル直接民主主義(Digital Direct Democracy: DDD)または電子的直接民主主義(Electronic Direct Democracy: EDD)である。アリストテレスの言うことが正しければ、人間は政治的な動物である。だが古代のギリシャ(アテネ)では少数の所謂自由人のみが政治をおこない、それ以外の多くの奴隷が社会を支えていた。これが民主主義の原型であるが、同時に理想でもある。そしてまさにこの理想がテクノロジーによって実現可能となるのである。つまり、全ての人間がインターネットを通じて等しく政治に参加できる社会となるのである。これはマルクスが夢見た共産主義の姿でもある。2
これに対して共産主義社会では、各人はそれだけに固定されたどんな活動範囲ももたず、 それぞれの任意の[どこでもすきな]部門で、自分を発達させることができるのであって、 社会が生産全般を規制しているのである。 だからこそ、私はしたいと思うままに、 今日はこれ、明日はあれをし、朝に狩猟を、 昼に魚取りを、夕べに家畜の世話をし、 夕食後に批判をすることが可能になり、 しかも、けっして狩人、漁師、牧人、 あるいは批判家にならなくてよいのである。 ドイツ・イデオロギー(44)
詳細
AIについて
AIとは何か
- AIはルールベースのものと機械学習のものがある。
- 例えばルールベースは探索木であり、機械学習はディープラーニング(深層学習)である。
- 近年特に顕著なのはディープラーニングである。
- これは教師あり学習と呼ばれるものであり、答えが設定されている学習データを使用する。
- 学習するためには大量のデータ(解答付き)が必要であり、そのデータを作るためには人間がおこなわなければならない。
- データを学習するためには大量の計算が必要となるので(たくさんの)GPUが必要となる。
数年前にディープラーニングを勉強してそれ以降全く忘れたから、このぐらいしか知らない。これから勉強し直す。まずはディープラーニングの生みの親の一人であるルカン(Yann Le Cun)の本を読む3。
AIには何ができるか。何ができないか。
- ディープラーニングの活用は主に3種類のものがある。
- いろいろできる。これまでディープラーニングでは自然言語処理が難しいと言われてきたけれども、トランスフォーマーというのが発見されて以降、飛躍的に精度が向上した。
- ディープラーニング、ひいては人工知能が、何ができないのか?
- 大量の教師ありデータが必要だから技術的には可能なことだとしても経済的には難しい場合が多々あるのではないか。
- 過去のデータから学習するので模倣はできるが創造はできない(ほんと?)
全然わかりません。まずはドレイファスの『コンピュータには何ができないか―哲学的人工知能批判』4を読む。
AIの社会的影響について
- 技術には2種類ある。ひとつは労働補完技術であり、もうひとつは労働置換技術である。
- 歴史的には労働者や政治家は労働置換技術には否定的であり反発される。理由はそれによって雇用が破壊されるからである。たいして労働補完技術は労働者に支持される傾向がある。
- AIは労働置換技術である。
- さらにAIで失われる仕事は事務労働であり、それは多くの中間層をなす仕事である。
- 失業した労働者は知的労働か肉体労働に移らなければならない。だがITのような知的労働は雇用をあまり生まず、多くの労働者は以前よりも賃金の低い肉体労働に従事せざるを得なくなる。
- 所得格差が広がり、富裕層と貧困層の二極化がますます生じる。
- したがってAIは政治家や労働者から反発される可能性が高い。
- だがAIの発展を止めるとイノベーションが起こらない可能性がある(イギリスが一番最初に産業革命をおこなえたのは蒸気機関という労働置換技術にたいして政治家が阻害しなかったから)。
近未来のシナリオを予測したカーツワイルの『シンギュラリティは近い』を読む5。技術の社会的影響については『テクノロジーの世界経済史』を読んでいる6。
BIについて
貧困と格差について
- 国家の目的は不幸を最小限にすることである。ここでの不幸とは殺人や強盗などの個人的な犯罪行為から、飢餓や戦争や貧困や格差などの社会的なものまでである。
- 資本主義の問題として格差が言われているが、それは正しくない。格差は問題ではない。問題は貧困である。そして貧困の有力な解決方法がBIである。
目的
- 格差の二極化を軽減するため。
- 貧困の解決。または減少させるため。
- 生活保護のような資力調査(ミーンズテスト)をおこなう貧困対策には問題点があるため、それを解決するため。
- 資力調査をおこなうことによる行政コストの削減のため。
制度設計
- BIには左派的なものと右派的なものがある。
- 私は理想的には右派的(リバタリアン)であるが、現実的にはいきなり廃止はできないので、少しずつ改革するほかないと考える。
- 受給者の条件について。最も排他的な場合だとその国の国籍を持つ人である。この場合だと移民のインセンティブがマイナスへと働くだろう。というのもその国の国籍を取得しない限り—そしてそのためには現地の言語を覚えるなどの同化をしなければならない—移民の人は現地の人と金銭的な差が生じるからである。
- だが通常は上記のような最狭義の条件ではなく、一定の条件を満たせば在留外国人にも受給対象となるだろう。
- 人間は未来のことについて考えるのが苦手なので、毎月全額を支給するのではなく、貯蓄率からの差分を支給するようにする。
- 例えば月7万円支給されるBIの場合、貯蓄率を10%に設定すると実際に給付されるのは6万3千円であり、残りの7千円は貯蓄(プール)される。これはもしものときの預金となる。
- 貯蓄率は上げることも下げることも簡単できるようにする。ただし人間心理を利用していろいろナッジする(Wikipediaの寄付のように)。
- アンカリングする。Wikipediaでは平均1,500円寄付されていると数字が表示されている。寄付者はそこから引っ張られる。同じように「平均貯蓄率は15%です」と記載する。
- みんなやっています。Wikipediaでは平均1,500円寄付されていると言っている。みんなと同じに合わせる傾向があるのでそのバイアスを利用する。
- 選択肢(ラジオボタン)と自由記入を追加する。人間はめんどくさがりなのでラジオボタンを選択しがちであるので、それを利用する。例えばラジオボタンには「10%・15%・20%・25%」として、それ以外を選択したい場合は自由記入欄にする。そうすれば特に「0%」などの極端を選択しづらくなる。
- 給付金はそのときの経済状況やインフレ率によって変動するようにする。中央銀行のようにそれを決定する独立機関を設置する。ただし人間は損失回避の心理があるので、給付金が下がることに抵抗感を生むかもしれない。そのため設計は固定額と変動額のものにするべきかもしれない。
効果について
- 実際にBIには貧困対策として有効なのか?
- これまで世界の様々な地域で実験がおこなわれてきたが、よくわからない。肯定的な論文もあれば否定的な論文もある。ちゃんと調査しないといけない。
- ただざっと見た感じでは「発展途上国では効果的だが先進国ではあまり効果がない、むしろ逆効果かもしれない」。または制度設計の問題かもしれず、給付金を調整したら成功するのかもしれない(失敗するのかもしれない)。
- 様々な実験ではミクロの結果(個人)が得られているが、未だ国民全員への給付実験がおこなわれていないのでマクロの結果(インフレ・GDPなど)はわからない。シミュレーションなどの研究はおこなわれているが、最早一国全員への給付実験をおこなうべきではないか?
他の貧困対策について
- 資力調査(ミーンズ・テスト)を伴う貧困対策には問題点がある。
- 貧困の罠。貧しいため所得を増やす機会に恵まれない場合に発生する悪循環のこと。
- 不安定性の罠。受給資格者に戻った場合にすんなり給付が再開されないと思えば、福祉受給者は短期の仕事に就くことを尻込みする。
- 資力調査のために尊厳を傷つけられる。受給資格があるかどうかをチェックされることは当人に時間的にも精神的にも負担がかかる。資料を作成したり、屈辱的な質問を受けたり。
- 補足率の低下。補足率とは実際には受給されなければならない人が受給されない確率である。つまり必要な人に手当が行き渡っていない。
- 負の所得税
- 雇用保証制度
- 慈善
- データベース設計の観点から考えると、ベーシックインカム以外の社会制度では国家には「所得」のデータ(カラム)が必要となる。対してベーシックインカムでは「所得」データは不要である。「国家はできるだけ国民の個人情報を持つべきではない」という原則に従うと、ベーシックインカムの方がより安全であるだろう。
「問題は格差ではなく、貧困である」というのは決定的な主張である。これはピンカーが『21世紀の啓蒙(上)』の第9章で言っていた7。さらに論証しなければならない。そのためにはピケティ8のあの分厚い本や他の人の格差論も読まねばならない。まずは『貧困』から読む9。さて絶対的貧困と相対的貧困の違いはなんだ? ジニ係数ってなんだ?
ベーシックインカムの教科書であるスタンディングの本は必読である10。ただこの本ではリバタリアン的なものを批判していた(Ch.3, Sec. リバタリアンの視点)。リバタリアンのベーシックインカム論を知りたいので、今後はZwolinskiの新刊(未刊行)を読む11。
ベーシックインカムに貯蓄率を追加するというのは今のところどこにも記載されていない。この辺は『ナッジ』にあるリバタリアン・パターナリズムからヒントを得た12。ただスタンディングはリバタリアン・パターナリズムに批判的である(Ch.2, Sec. 家族関係と正義, Ch.3, Sec. リバタリアン・パターナリズムの危険性)。
財源については余計な支出(行政コスト)を削減した上での、増税である。何を財源とするかは難しいところだが、公平性の観点から言えば所得税となるだろう。だが、リバタリアン的にはそれで問題ないのか、まだわからない。
また増税なしに国債発行で問題ないとする考えもある。その一つがMMTである。MMTによると「過度なインフレにならない限り、自国通貨を発行している政府はいくらでも借金してかまわない」からである。もっともMMTは政策的には就業保証プログラム(Job Guarantee Program)を支持しているので、多くのMMT論者はベーシックインカムには否定的である。だが、一部にはMMT論者でベーシックインカム支持者もいる13。
スタンディングはベーシックインカムの導入の理由において「社会正義」を掲げている。だが私はベーシックインカムにそこまでの強い主張を持っていない。もしも効率的な貧困対策ができるならばそれでいいと考えている。つまり、できるだけ行政コストが少ない中でより大きい貧困解決のパフォーマンスがあればそれでよい。逆に言えばもしベーシックインカムが行政コストを肥大化させ、かつそれほど貧困対策となっていなければ私の主張は潔く捨て去る。それは私が経験主義であるからである。つまり「知識の究極的な根拠は理性ではなく経験である」ということである。確かに理論的にはベーシックインカムは他の貧困対策に比べて、コストパフォーマンスが高いと考えられるが、実際やってみなければわからない。そしてしばしば理論は外れる。
税金の目的
- 太古の昔から人々が豊かになる方法は収奪することしかなかった。それは文字通りの強盗というのもあれば、賄賂というのもあった。それを国家が正当化したものが税金である。税金という収奪の唯一の正当化は国防である。
- 資本主義の肯定: 富はゼロサムゲームであった。だが資本主義がこの状況を一変させた。富を増やすことができるようになった。
- 私有財産の肯定: 私有権の否定こそが共産主義であるが、それは人間の本性に合わない非合理な思想である。
- いかなる公共権も認めない(つまりすべて私有権である)というのも、いかなる私有権も認めない(つまりすべて公共権である)というのも、両者とも排斥する。
税についてはまだちゃんと調べていない。アイディアはハッカーの本から得た^Graham。ただこれが正しいのかはわからない。
リバタリアンの思想を理解しなければならないので、ノージックの本を読む14。またフリードマンのも読む15。
私有財産について考えたいために『人はなぜものを欲しがるのか』16という本を読んだが、あまり参考にならなかった。当初は私有財産の起源を進化論的に説明するのかと思って読んでみたが、実際はそういうことはなく(もしかしたらあったかも?)、児童心理学から説明していたので、期待と異なっていた。結局飽きてしまい途中で止めた。
DDDについて
民主主義について
- 間接民主主義には問題がある。
- 直接民主主義のデメリットはテクノロジーによって解決できる。
- 職業的政治家が消え去る。世襲議員が消える。これ以上の喜ばしいことがあるだろうか!
- 組織票もなくなる。
- 有権者が政治家に「なぜこれをやらないのか!? 今の政治はおかしい!」と不平不満を言うことがなくなる。なぜなら我々全員が有権者でもあり政治家でもあるからである。自分達で政治ができるのである。こんなにいいことはないではないか— 実際文句を言っている連中はただ無責任なことを言いただけならば話は別だが。
- 余計な税金がなくなる。政党助成金なんてものはなくなる!
まずは民主主義の歴史から勉強する。民主主義自体の本はたくさんあるが、直接民主主義やデジタル民主主義はあまり見当たらなかった。少なくとも日本語では。これからちゃんと勉強する。Roslyn Fullerという政治学者がいることを知った。この人は民主主義の研究をしていて、デジタルデモクラシーについても議論している。『Principles of Digital Democracy』17という本が今年出るので(まだ未刊行)、それを読む。
労働について
来るべき未来の社会は多かれ少なかれ労働しない社会となる。それは果たして良い社会なのだろうか?
グレーバーによると世界には「クソどうでもいい仕事」が存在している18。「ベーシックインカムの究極的な目的は、生活を労働から切り離すことにある」(Ch.7, Sec. 仕事と報酬を切り離し本書で論じてきたジレンマを集結させる構想の一案としての普遍的ベーシックインカム)。それによってクソどうでもいい仕事は消え去り、我々は真に有益な仕事に従事することができるようになるという。
アーレントによると人間の働きには「仕事」「労働」「活動」の3つあるという19。古代ギリシャでは「労働」は奴隷のものであるために、自由人は労働を軽蔑して、活動をおこなっていた。ここでの活動とは「政治」である。だが、ルネッサンスから「労働」の価値が高くなり、マルクスに至って近代以降「労働」が最高の価値となった(アーレントの本はまだ読んでいないのでちゃんと読む)。
今こそ近代から続いた労働観を転換すべき時ではないだろうか?
おわりに
これから1年〜2年ぐらいかけてまとめる。本に出版したいとも思っている。日本語版ができたらすぐに英語版を出版したいと思っているから基本的には外国の文献しかない。日本語の著作は直接引用はしないけれども背景知識として隠れている。特に井上智洋さんの本に影響されている(20)(21)(22)。直接指導してもらおうかな。
できるように頑張る。ちょこちょこ書く。
僕から以上
- 孫たちの経済的可能性↩
- ドイツ・イデオロギー↩
- ディープラーニング 学習する機械 ヤン・ルカン、人工知能を語る↩
- コンピュータには何ができないか―哲学的人工知能批判↩
- シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき↩
- テクノロジーの世界経済史 ビル・ゲイツのパラドックス↩
- 21世紀の啓蒙 上: 理性、科学、ヒューマニズム、進歩↩
- 21世紀の資本↩
- 14歳から考えたい 貧困 【ベリー・ショート・イントロダクション】↩
- スタンディング ベーシックインカムへの道 ―正義・自由・安全の社会インフラを実現させるには↩
- Matt Zwolinski Universal-Basic-Income-Everyone-Needs↩
- NUDGE 実践 行動経済学 完全版↩
- ベーシックインカム×MMT(現代貨幣理論)でお金を配ろう: 誰ひとり取り残さない経済のために↩
- アナーキー・国家・ユートピア―国家の正当性とその限界↩
- 資本主義と自由 (日経BPクラシックス)↩
- 人はなぜ物を欲しがるのか↩
- Principles of Digital Democracy Theory and Case Studies↩
- ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論↩
- 人間の条件↩
- 純粋機械化経済 頭脳資本主義と日本の没落 (日本経済新聞出版)↩
- AI時代の新・ベーシックインカム論 (光文社新書)↩
- 「現金給付」の経済学 反緊縮で日本はよみがえる (NHK出版新書)↩