疑念は探究の動機であり、探究の唯一の目的は信念の確定である。

数学・論理学・哲学・語学のことを書きたいと思います。どんなことでも何かコメントいただけるとうれしいです。特に、勉学のことで間違いなどあったらご指摘いただけると幸いです。 よろしくお願いします。くりぃむのラジオを聴くこととパワポケ2と日向坂46が人生の唯一の楽しみです。

ゆっくり学ぶアーベル圏 第3回: 特別な射

概要:

今回は圏論において重要な射を研究する。つまり同型写像(アイソモルフィズム)とモノモルフィズムとエピモルフィズムである。一般に、同型写像ならばモノでありかつエピであるが、その逆は言えない。しかし、集合の圏{\bf{Sets}}ではそれが言える。このような条件を満たす圏は「質のいい」圏であり、アーベル圏もそうである。

 

 

 同型写像

写像の復習と同型写像(全単射)

前回、述べたがここで写像の復習をしよう。その定義は以下であった。

定義

{A, \,B}を集合とする。{f: A\to B}が集合 {A}から集合 {B}への写像とは {A}任意の{x\in A}に対して、ただ1つの元 {y\in B}が対応するものである。それを {f(x) = y}と書く(このように書けるのは、{x\in A}に対応する {B}の元の一意性からできる)。

 

写像 {f: A\to B}の行くところつまりここでは {A}ドメインと言い、行った先つまりここでは {B}ドメインと言う。

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写像の図。このような写像の書き方をInternal Diagramと言う。



写像の同等性(等しいこと)を定義しよう。容易にわかるように、集合間での2つの写像が等しいとはそれぞれドメインとコドメインが等しく、任意のドメインの元に対して、それぞれの写像が同じ値を与えることである。正確に言うと、次のようになる。

 

 2つの写像 {f: A\to B, \, g: C\to D}が与えられているとする。写像 {f}写像 {g}等しいつまり( {f = g})とは、次の3つの条件を満たすことである。

(1)  ドメインが等しい。つまり、{X:= A = C};

(2)  コドメインが等しい。つまり、{Y:= B = D};

(3)  {X}の任意の元 {x\in X}に対して、{f(x) = g(x) \in Y}である。

 

さて、写像 {f: A\to B}が与えられているとする。もしも上の条件の{A}{B}を入れ替えたもの(条件)が、写像 {f: A\to B}を満たすとしよう。つまり、

条件(1)

写像 {f: A\to B}は、任意の元 {x\in B}に対して、ただ1つの元{y\in A}が対応すると仮定する。

このような条件(1)を満たす写像 {f: A\to B}全単射(bijection, bijective)と言う。それでは全単射の性質をみていこう。

 

全単射の性質

{A,\, B}を集合とし {f: A\to B}全単射とする。このとき、{B}から {A}への新たな写像 {g: B\to A}が定義できる。つまり、

写像 {g: B\to A}を次のように定義できる。

任意の元 {y\in B}に対して、ただ1つの元 {x\in A}が対応している。{g(y) = x}

これはつまり、

                     {g(y) = x\,\,\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}\,\, f(x) = y}

である。

さて、ここで {f,\, g}の合成写像 {g\circ f: A\to A}{f\circ g: B\to B}をそれぞれ考えてみよう。もちろんこのように {f,\, g}を合成することができることは明らかである。

 

1)  合成写像 {g\circ f: A\to A}について

{A}の任意の元 {a\in A}に対して

{c := (g\circ f)(a) = g( f(a) )}であるので、これは {b = f(c) = f(a)}である。ここで、条件(1)の一意性から {c = a}であることがわかる*1。したがって、{g\circ f (a) = a = 1_{A}(a)}である。ここで、{1_A: A\to A}とは {A}の恒等写像である。よって、

{g\circ f = 1_A}

である。 

 

2)  合成写像 {f\circ g: B\to B}について

合成写像 {f\circ g}も同様に考えればよい。{B}の任意の元 {b\in B}に対して

{(f\circ g)(b) = f( g(b) ) = b = 1_B(b)}である*2

よって、

{f\circ g = 1_B} 

である。

以上より、

定理 1

写像 {f: A\to B}全単射であるとき、

 

(1)   {g\circ f = 1_A}

 

(2)   {f\circ g = 1_B} 

 

が成り立つ。

 

同型写像とその一意性 

前節の定理 1の性質 (1), (2)がいいのは、これらは要素間の性質ではなく、合成写像と恒等写像の間の性質であるということである。それによって、この性質は一般の圏で定義することが可能となるのである。このような写像(射)を同型写像(同型射)と言う。

定義

{\bf{C}}の射 {f: A\to B}同型射(isomorphism)であるとは、ある射 {g: B\to A}が存在して、

 

(1)   {g\circ f = 1_A}

 

(2)   {f\circ g = 1_B} 

 

が成り立つことである。

 

{\bf{C}}の対象 {A,\, B}同型(isomorphic)であるとは、それらの間に同型射が存在することである。そのことを {A\cong B}と表す。

 

 さらに、射 {g}が上の定義の(1)か(2)のいずれを満たすような場合も考えられる。それらをそれぞれレトラクション、セクションという。

定義

{\bf{C}}の射 {f: A\to B}が与えられているとする。射 {g: B\to A}が {f\circ g = 1_B}を満たすとき、{g}{f}セクション(section)と言い、{g\circ f = 1_A}を満たすとき、{g}{f}リトラクション(retraction)と言う。

 

 

さて、射 {f: A\to B}が同型射であるとき、 {g: B\to A}は一意に定まる。つまり、2つの射 {g_1, g_2: B\to A}

(1)  {g_1\circ f = 1_A};   (2)  {f\circ g_1 = 1_B};   (3)  {g_2\circ f = 1_A};   (4) {f \circ g_2 = 1_B}

を満たすならば、{g_1 = g_2}である。

実際、{g_1 = g_1\circ 1_B = g_1\circ (f\circ g_2) = (g_1\circ f)\circ g_2 = 1_A\circ g_2 = g_2}である。 

 

上の式をよく見ればわかるように、2つの射 {g_1, g_2: B\to A}に対して、{g_1}がリトラクションで、{g_2}がセクションであれば、{g_1 = g_2}となり、{f: A\to B}は同型射であることがわかる。

 

 

同型射 {f: A\to B}に対する射 {g: B\to A}の一意性が示されたので、次のようにすることができる。

定義

同型射  {f: A\to B}に対する射 {g: B\to A}{f}インバーティブル(invertible for {f})または {f}インバース(the inverse of {f})と言い、それを {f^{-1}}と書く。

 

 

同型射とセクションとリトラクションをまとめると次のようになる。

{\bf{C}}の射 {f: A\to B}に対して、

{f: A\to B}はインバースを持つ, i.e. {f}は同型射である。{\Longleftrightarrow\,\,} {f}はセクションとリトラクションを持つ。 

 

単射全射全単射

単射全射の定義

一般の圏から離れて、再び集合の写像 {f: A\to B}について考えてみよう。さきほども述べたように全単射の条件は

任意の{b\in B}に対して、ただ1つの{a\in A}が存在して、{f(a) = b}が成り立つことである。

 

要は、写像 {f: A\to B}の定義のドメインとコドメインを変えたものが条件となっている。

ここで、上の条件の「任意の」が少なくとも成り立っているとき(つまり、{A}のただ1つの元に対応しているとは限らない)、{f: A\to B}全射と言い、「ただ1つの」が少なくとも成り立っているとき(つまり、{B}のある元は いかなる元 {a\in A}にも対応していないかもしれない)、{f: A\to B}単射と言う。定義は以下の通りである。

定義

写像 {f: A\to B}単射(injection, injective)であるとは、{A}の任意の異なる元 {a_1\neq a_2}に対して、{f(a_1)\neq f(a_2)}であることである。言い換えれば、もし {f(a_1) = f(a_2),\,\,a_1, a_2\in A}ならば、{a_1 = a_2}であることである。

 

{f: A\to B}単射である。{\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}\,\,} {f(a_1) = f(a_2)\,\, \Rightarrow\,\, a_1 = a_2,\,\,\quad a_1, a_2\in A.}

 

 

写像 {f: A\to B}全射(surjection, surjective)であるとは、{B}の任意の元 {b\in B}に対して、{A}のある元 {a\in A}が存在して、{f(a) = b}が成り立つことである。

 

{f: A\to B}全射である。{\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}\,\,} {^{\forall} b\in B,\,\, ^{\exists} a\in A;\, f(a) = b.}

 

当然のことながら、写像{f: A\to B}単射でありかつ全射であるとき {f}全単射である。 

 

単射全射の性質: キャンセレーション

単射全射全単射と同様に要素間の定義である。これらから導かれる性質をみて、一般の圏でも定義可能な射を考えてみよう。つまりそれらの性質は対象と射と合成と恒等射のどれかによって表されているものである。単射全射は以下のような定理がある。

定理 2

写像  {f: A\to B}に対して、

 

(1)  {f: A\to B}単射ならば、任意の写像のペア {X\overset{g_1}{\underset{g_2}{\rightrightarrows}}A}に対して、{f\circ g_1 = f\circ g_2\,\,\Rightarrow\,\, g_1 = g_2}が成り立つ。

(左キャンセレーション)

 

(2)  {f: A\to B}全射ならば、任意の写像のペア {B\overset{g_1}{\underset{g_2}{\rightrightarrows}}Y}に対して、{g_1\circ f = g_2\circ f\,\,\Rightarrow\,\, g_1 = g_2}が成り立つ。

(右キャンセレーション)

証明

(1)  {f: A\to B}単射として、任意の写像のペア {X\overset{g_1}{\underset{g_2}{\rightrightarrows}}A}に対して、{f\circ g_1 = f\circ g_2}であると仮定する。{X}の各元 {x\in X}に対して、{(f\circ g_1)(x) = f( g_1(x) ), \, (f\circ g_2)(x)= f( g_2(x) )}である。{f( g_1(x) ) = f( g_2(x) )}である。{f: A\to B}単射であるので、{g_1(x) = g_2(x)}である。つまり、{g_1 = g_2}である。

 

(2)  {f: A\to B}全射として、任意の写像のペア {B\overset{g_1}{\underset{g_2}{\rightrightarrows}}Y}に対して、{g_1\circ f = g_2\circ f}であると仮定する。示すことは、{B}のすべての元 {b\in B}に対して、{g_1(b) = g_2(b)}である。すべての元 {b\in B}に対して、{f: A\to B}全射より、{A}の元 {a\in A}が存在して、{f(a) = b}が成り立つ。したがって、仮定 {g_1(f (a) ) = g_2( f(a) )}より

{g_1(b) = g_1( f(a) ) = g_2( f(a) ) = g_2(b)}である。つまり、{g_1 = g_2}である。(了)

 

 

モノとエピとバイモルフィズム

モノモルフィズム・エピモルフィズム・バイモルフィズムの定義

定理 2の性質はキャンセレーション(the cancellation)と言われる。単射の場合は左キャンセレーション(the left-cancellation)、全射の場合は右キャンセレーション(the right-cancellation)とそれぞれ呼ばれる。

キャンセレーションは対象と射と合成からしか定義されていない性質であるので、一般の圏でも定義可能である。このような左(右)キャンセレーションの性質を持つ射をそれぞれモノモルフィズム、エピモルフィズムと呼ばれ、両方キャンセル可能な射をバイモルフィズムと呼ばれる。定義は以下の通りである。

定義

{\bf{C}}の射 {f: A\to B}に対して、

 

(1)  {f: A\to B}モノモルフィズム(monomorphism)またはモノ(mono)またはモニックである(monic)であるとは、左キャンセル可能な射である。つまり、任意の射のペア {X\overset{g_1}{\underset{g_2}{\rightrightarrows}}A}に対して、{f\circ g_1 = f\circ g_2\,\,\Rightarrow\,\, g_1 = g_2}が成り立つことである。

 

(2)  {f: A\to B}エピモルフィズム(epimorphism)またはエピ(epi)またはエピックである(epic)であるとは、右キャンセル可能な射である。つまり、任意の射のペア {B\overset{g_1}{\underset{g_2}{\rightrightarrows}}Y}に対して、{g_1\circ f = g_2\circ f\,\,\Rightarrow\,\, g_1 = g_2}が成り立つことである。

 

{f: A\to B}がモノでありかつエピであるとき、{f}バイモルフィズム(bimorphism)と言う。

 

セクションならばモノであり、リトラクションならばエピである

したがって、先ほどわかったように、単射ならばモノであり、全射ならばエピである。さらに前に定義されたセクションとリトラクションもそれぞれモノ、エピである。

定理 3

{f: A\to B}を圏 {\bf{C}}の射とする。このとき、{s: B\to A}{f}のセクションならばモノであり、{r: B\to A}{f}のリトラクションならばエピである。したがって、{f}が同型射であるならばバイモルフィズムである。

証明

{s: B\to A}がセクションであるときそれがモノであることのみを示す。リトラクションの証明も同様である。

{s: B\to A}をセクションとする。つまり、{f\circ s = 1_B}が成り立っているとする。任意の写像のペア {X\overset{g_1}{\underset{g_2}{\rightrightarrows}}B}に対して、{s\circ g_1 = s\circ g_2}であると仮定する。このとき、{f\circ (s\circ g_1) = f\circ (s\circ g_2) \Leftrightarrow (f\circ s)\circ g_1 = (f\circ s)\circ g_2\Leftrightarrow 1_B\circ g_1 = 1_B\circ g_2}{\Leftrightarrow g_1 = g_2.} 

よって、{s}はモノである。(了)

 

 

定理 3の事実からセクションはスプリット・モノ(split mono)、リトラクションはスプリット・エピ(split epi) とそれぞれ言われることもある。

 

 

集合の場合

バランスな圏

ここまでの議論をまとめると、一般の圏において、

(1)  iso = section and retraction

(2)  section {\Rightarrow} mono

and

    retraction {\Rightarrow} epi

(3)  bimorphism = mono and epi

(4)  iso {\Rightarrow} bimorphism

である。

 

 

つまり、同型射ならばバイモルフィズムである。ではこの逆はどうなのか。一般の圏では成り立たない。例えば、圏としてのプレオーダー {P}はすべての射はバイモルフィズムであるが、同型射であるとは限らない。より簡単な圏ならば次のものである。

 

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対象が2つであり射が3つの圏



このとき {f: A\to B}はバイモルフィズムであるが、同型射ではない。

しかし、 のちに示すように、集合の圏 {\bf{Sets}}はこの逆が言える。つまり、バイモルフィズムならば同型射である。このようなバイモルフィズムと同型射が一致している圏をバランス(balanced)と言う。予告するとアーベル圏はバランスであり、したがってアーベル圏は「性質のよい」圏である。

 

集合の圏 {\bf{Sets}}はバランスである

集合の圏 {\bf{Sets}}においては、定理 1より、

(5)   bijection = injection and surjection {\Rightarrow} iso 

であることがわかっている。

我々は集合の圏 {\bf{Sets}}がバランスであることを示す。つまり写像 {f: A\to B}がバイフォルフィズム(モノでありかつエピ)であるなら {f}が同型写像であることを示す。{f}はモノかつエピであるので、(5)より、{f}単射でありかつ全射であることを示せば十分である*3

したがって、我々が示すべき命題は以下である。

定理 4

写像 {f: A\to B}がモノであるならば、{f}単射である。つまり、

任意の写像のペア {X\overset{g_1}{\underset{g_2}{\rightrightarrows}}A}に対して、{f\circ g_1 = f\circ g_2\,\,\Rightarrow\,\, g_1 = g_2}が成り立つならば、{f(x_1) = f(x_2)\,\,\Rightarrow\,\, x_1 = x_2\in A}である。 

 

定理 5

写像 {f: A\to B}がエピであるならば、{f}全射である。つまり、任意の写像のペア {B\overset{g_1}{\underset{g_2}{\rightrightarrows}}Y}に対して、{g_1\circ f = g_2\circ f\,\,\Rightarrow\,\, g_1 = g_2}が成り立つならば、{B}の任意の元 {b\in B}に対して、{A}のある元 {a\in A}が存在して、{f(a) = b}が成り立つことである。

 

定理 4(モノならば単射)の証明

{f: A\to B}がモノであると仮定して、{f(x_1) = f(x_2)}とする。このとき {x_1 = x_2}であることを示せばよい。ここで、1点集合(singleton set) {\bf{1}}を考える。つまり、{\bf{1}: = \{ * \}}とする。我々は {A}の任意の元 {x\in A}を1点集合 {\bf{1}}から集合 {A}への写像と考える。つまり、{{\bf 1} = \{ * \}\overset{x}{\to} A}{*\mapsto x(*):= x\in A}で定める。したがって、{{\bf 1}\overset{f\circ x_1}{\underset{f\circ x_2}{\rightrightarrows}}B}に対して、{(f\circ x_1)(*) = f(x_1) = f(x_2) = (f\circ x_2)(*)}であるので、{f\circ x_1 = f\circ x_2}である。よって、{f}はモノより、{x_1 = x_2}である。(了)

 

注意

モノから単射を示すためには1点集合の存在が必要である。これを一般化するためには、一般の圏における1点集合に匹敵する対象を定義しなければならない。そのような対象は終対象と呼ぶが、そのことに関しては次回議論する。

 

定理 5(エピならば全射)の証明

{f: A\to B}がエピであると仮定して、{f}全射であることを示す。我々は {f}全射であることを背理法で示す。つまり、{f}全射でないと仮定して、矛盾を示す。{f}全射でないとは、ある元 {y_0\in B}が存在して、すべての元 {x\in A}に対して、{f(x) \neq y_0}が成り立つと仮定する。

さて、全射でないことを示すために我々は 2点集合(two-element set) {{\bf 2}: = \{ 0, 1 \}}を定める。ここで写像 {B\overset{g_1}{\underset{g_2}{\rightrightarrows}}\bf{2}}を次のように定義する。{g_1(x)}{x = y_0}のとき、1であり、{x \neq y_0}のとき、{0}である写像であり、{g_2(x) = 0}となる定数写像とする。

このとき、{A\overset{g_1\circ f}{\underset{g_2\circ f}{\rightrightarrows}}\bf{2}}{g_1\circ f = g_2\circ f}である。実際、任意の元 {x\in A}に対して、背理法の仮定 {f(x)\neq y_0}より、

{(g_1\circ f)(x) = g_1( f(x) ) = 0}でありかつ{(g_2\circ f)(x) = g_2( f(x) ) = 0}である。つまり、{g_1\circ f = g_2\circ f}である。{f}はエピより、{g_1 = g_2}となる。

だが、{g_1,\,g_2}写像の構成から {g_1(y_0) = 1}であり {g_2(y_0) = 0}であるから、{g_1 \neq g_2}である。これは矛盾である。したがって、{f: A\to B}全射である。(了)

 

注意

エピから全射を示すためには、モノと同様に2点集合が必要である。2点集合は真理値( {1 = true, \,0 = false})集合でありこれを一般化するとサブオブジェクト・クラシファイヤー(subobject classifier)となる。サブオブジェクト・クラシファイヤーはトポス(topos)の定義の1つの要件である。 我々はこれに関しては以降議論しない(と思う)。少なくともしばらくは議論しない。

 

 

まとめ

我々はさまざまな射を考えてきた。同型射(isomorphism)、セクション(section, split monic)、リトラクション(retraction, split epic)、モノモルフィズム(monomorphism)、エピモルフィズム(epimorphism)、そしてバイモルフィズム(bimorphism)である。そしてそれらには包含関係がある。それは以下のようになる。

 

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⇨は含意を表す

 

これらの射は圏論の公理から定義できる射である。だが、集合論においては、要素間の関係で定義された特別な写像があり、それらは全単射単射全射と呼ばれる。さらに集合論では同型写像は結果的にはバイモルフィズムであり全単射である。しかし、一般的には同型射ならばバイモルフィズムであるが、逆は言えない。さらに、圏上で、全単射などを定義するためには特別な対象がなくてはならない。アーベル圏はバイモルフィズムが同型射であるような質のいい圏(バランス)である。それを示すことがこの連続記事の目的の1つである。

 

 

次回予告

次回は特別な対象について議論する。そこでは圏論において決定的に重要な「普遍性」という概念が出てくる。それによって特別な対象を定義する。

次号を待て!!

 

 

参考文献 

Harold Simmons, An Introduction to Category Theory, ch.2.1-ch.2.2

F. W. Lawvere and Robert Rosenbrugh, Sets for Mathematics, pp.81-82 

F. W. Lawvere and Stephen H. Schauel, Conceptual Mathematics, Articles I, II 

 

 

僕から以上

 

 

*1:{B}の任意の元 {b\in B}に対して、ただ1つの {A}の元 {a\in A}が存在して、{f(a) = b}が成り立つ。つまり、{b = f(a_1) = f(a_2)}ならば {a_1 = a_2}である。

*2:{d:= g(b)}とすると、これは {g}の定義より、{f(d) = b}である。{d = g(b)}より、{f( g(b) ) = b}である。

*3:直接、モノからセクション、エピからリトラクションを示すこともできると思う。したことはないけれども。演習問題としていいかもしれない。