疑念は探究の動機であり、探究の唯一の目的は信念の確定である。

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多様体上の微分形式についての覚書

多様体上の微分形式について簡単にまとめる。これは単なるスケッチであり、細かい議論はしない。というか私もまだわかっていないし、だいぶ多様体について忘れてしまったので、詳細は書くことができない。

多様体論の前提

多様体論を議論するにあっては(1)位相空間の知識 (2) 微分積分の知識 (3) 線形代数の知識が必要になる。
このスケッチでは線形代数の知識、特に線形写像とmultilinear mapと双対空間の知識しか使われない。
実数 {\mathbb{R}} 上のベクトル空間 {V} の双対空間 {V^*} とは、{V} から実数への線形写像の集まりであり、その集合には自然に足し算とスカラー倍が定義できて、双対空間 {V^*} は実数上のベクトル空間となる(以下、実数上は省略される)。つまり、
{V^*:= \{f: V\to \mathbb{R}\,|\,f \,\textrm{is a linear map}\}}
{f, g\in V^{*}, x\in V} に対して、新しい写像 {f + g\in V^{*}}
{f+g(x) = f(x) + g(x)} で定義する。これは {V^{*}} の元、すなわち、実数への線形写像である。
{f\in V^{*}, \alpha\in \mathbb{R}} に対して、新しい写像 {\alpha\cdot f\in V^{*}}
{\alpha\cdot f(x) = \alpha f(x)} で定義する。これも線形写像である。そしてこのように定義された集合 {V^{*}} はベクトル空間の公理を満たす。

微分形式の前提

実数上の{C^{\infty}}多様体 {M} 定義する(以下では単に多様体といい次元を {n} とする)。そして次に点 {p\in M} の接空間 {T_p M} を定義する。
{p\in M} の接空間(tangent space)はイメージとしては曲面上のある点に対する接平面のことである。曲面が多様体であり、接平面が接空間である。
そのイメージから分かるように接空間は {n} 次元ベクトル空間である。接空間 {T_p M} の双対空間 {T^{*}_p M} を余接空間 (cotangent space)という。
接空間は接平面として具体的にイメージできるが対して、余接空間に対しては難しい。これは純粋な推論で認識しなければならない。
さて、各点の接空間の集まり {TM} を考える。すなわち、
{TM = \underset{p\in M}{\bigcup} T_p^{*}M}
を考える。
実は、これは {2n} 次元の多様体となる。この多様体 {TM} を接バンドル(tangent bundle)という。ここには自然な射影 {\pi: TM\to M} が存在する。このイメージは教科書に書かれていることもあるが、私はまだよくわからない。ただ、物理学的に解釈すれば接バンドルはconfiguration space(日本語でなんていうか知らない)ということである。{n} 個の物質の位置と速度を一点として考えてそれが動く空間のこと。
そして、双対的に考えて、各点の余接空間の集まり {TM^{*}}多様体となり、これは余接バンドル(cotangent bundle)と言われる(余接バンドルから多様体への自然な射影が存在する)。これはHamilton系の一般化でもある。つまり、{TM^{*}} には自然なsymplectic form(Liouville form)が存在する。

ベクトル場と微分形式(1-form)

{M} の滑らかなベクトル場 {\mathcal{X}(M)} とは{\pi\circ \mathcal{X}(M) = 1_M} を満たす滑らかな写像 {\mathcal{X}(M): M\to TM} のことである。 以下「滑らかな」を省略する。ベクトル場は与えられた点に対して接空間を滑らかに対応させる写像である。
一般に写像 {B\overset{s}{\underset{t}{\rightleftarrows}}A}{r\circ s = 1_B} を満たすとき、{s}{t} の切断(section)と言う。ベクトル場を切断の用語で言うと、ベクトル場 {\mathcal{X}(M): TM\to M} は 射影 {\pi} の切断である。
{M\overset{\mathcal{X}(M)}{\underset{\pi}{\rightleftarrows}}TM} such that {\pi\circ \mathcal{X}(M) = 1_{M}.}

双対的に余接バンドルの射影 {\pi: TM^{*}\to M} の切断 {\omega: M\to TM^{*}} を1-微分形式(1 differential form)と言う。普通単に1-形式という。

本題までの準備: k-形式

1-微分形式を一般化してk-形式(k differential form)を考える。その前に一つ記号を導入する。
一般のベクトル空間 {V} に対して、ベクトル空間 {V\times V} から実数へのバイリニアーでアンチシンメトリックな線形写像の集合 {\Lambda^2(V)} を考える。つまり、
{\Lambda^2(V):= \{f: V\times V\to \mathbb{R}\,|\, f\, \textrm{is bilinear and anti-symmetric}\}}
バイリニアーの意味は1つ目の {V} と2つ目の {V} に対して独立に線型性を保つ写像である。つまり、{x, y, z\in V, \,a, b\in \mathbb{R}} に対して {f(ax+by, z) = af(x, z) + bf(y, z)} かつ {f(x, ay + bz) = af(x, y) + bf(x, z)} が成り立つ写像である。そして、アンチシンメトリックの意味は、{f(x, y) = -f(y, x)} である。
このようなバイリニアでアンチシンメトリック写像の例は {\textrm{det}: \mathbb{R}^2\times \mathbb{R}^2\to \mathbb{R}} である。
{\Lambda^2(V)} は容易にベクトル空間となる。
そしてこれは一般化できて、k-マルチリニアでアンチシンメトリック写像のベクトル空間を {\Lambda^k(V)} と書く。当然ながら {k = 1} のとき、{\Lambda^1(V) = V} である。

そこで余接バンドルを構成したのと同じように、{k} 次余接バンドルを次のように定義する。
{\Lambda^k(T^{*}M):= \bigcup_{p\in M}\Lambda^k T^{*}_p M}
これも同様に{2n} 次元の多様体となり、標準的な射影 {\pi: \Lambda^k T^{*}M\to M} が存在する。
1-形式と同様にして、{k} 形式を {\pi: \Lambda^k T^{*}M\to M} の切断で定義する。

普通に(双対的に)考えれば、ベクトル場にもk形式のように一般化してもいいのではないかと思うが、なぜかそのようにはしない。


これで今回のメインディッシュの下ごしらえができた。

メイン 1: k-形式のいくつかの定義

一つ目の主題はk-形式にはいくつかの表現があるということである。

切断による定義

まずは上で定義したように切断による定義である。これはわかりやすい。

局所座標系による定義

しかし、切断による定義は理論的にはすっきりしているが具体的な計算には不向きである。そこで、これを局所座標を用いて定義(表現)することも必要であり、それを理解しなければならない。

ベクトル場 {\mathcal{X}(M)\times \cdots \times\mathcal{X}(M)} から実数値関数 {C^{\infty}(M)} への写像としての定義

次のようなマルチリニアでアンチシンメトリック(アルターナイティングとも言う)な写像を考える。
{\alpha^k: \mathcal{X}(M)\times \cdots \times \mathcal{X}(M)\to C^{\infty}(M)}
ここで、{\mathcal{X}(M)} はベクトル場であり、{C^{\infty}(M)}{M} から実数上への滑らかな({C^{\infty}}級)関数の集まり(ベクトル空間・正確にはalgebra)である。つまり、
{C^{\infty}(M):= \{f: M\to\mathbb{R}\,|\, f\,\textrm{is a smooth function}\,\}}
もちろん、この場合ベクトル場 {\mathcal{X}(M)} はk個ある。

このとき次の事実がある。

{M}{k}-形式すべての集合は自然にマルチリニアでアルターナイティングな写像すべての集合と同一視できる。

Morita, Geometry of differential forms, Theorem 2.8 ch.2, downloadable
Tu, An Introduction to Manifolds, downloadable, にも同様の定理がある。

要はk-形式 {\alpha^k: M\to \Lambda^k T^{*}M}{k} 個のベクトル場の直積 {\mathcal{X}(M)\times \cdots \times \mathcal{X}(M)} から{M} 上の関数の集まり {C^{\infty}(M)} へのマルチ&アンチな写像とみなすことができるということである。
これは決定的に重要である。k-形式 {\alpha^k} はあるときには {M} から余接バンドルへの写像と考える時もあれば、k個のベクトル場から関数空間への写像として考えることもあるからである。
k-形式の滑らかな集まり {\{\omega_t\}} というものを考えて、これの微分とかを考えるとき、k-形式を切断によるものとして考えたらよくわからず、ベクトル場からの写像として考えて初めて理解できる(と思う)。

メイン2: 微分形式の間の種々の演算

k-形式が定義できたら、次はそれらに関するさまざまな演算を定義する。定義してそれらの関係性を理解しなければならない。

k-形式の集まり {A^k(M)} はベクトル空間となる。

外積(exterior products)

一つ目は外積(exterior product or wedge product)である。
これはk-形式とl-形式に対して(k+l)形式を割り当てる写像である。 {\wedge: A^k(M)\times A^l(M)\to A^{k+l}(M)}
{(\alpha^k, \beta^l)\mapsto \alpha^k\wedge\beta^l}

内部積(interior products)

次に内部積(interior product)である。
これは内積とは異なり(たぶん全く関係ないと思う) k-形式に対して一つ次元を下げる(つまりk-1形式)を割り当てる写像である。ベクトル場 {X\in\mathcal{X}(M)} に対して、
{\iota_X: A^k(M)\to A^{k-1}(M)}

引き戻し(pullback)

多様体論ではしばしば引き戻しという操作をする。
しかし、これは圏論における引き戻し(pullback)と同じ意味なのかはまだ知らない。

微分(exterior derivative)

微分は内部積と逆で次元を一つあげる演算である。
{d: A^k(M)\to A^{k+1}(M)}
{d\circ d = 0} が成り立つ。

リー微分(Lie derivative)

リー微分幾何学的なイメージがある(忘れた)。これはk-形式をk-形式にする演算である(リー微分はベクトル場からベクトル場への演算でもある)。ベクトル場 {X\in \mathcal{X}(M)} に対して、
{\mathcal{L}_X: A^k(M)\to A^k(M)}
となる写像である。
幾何学的な意味を理解して、さらにその代数的な公式も理解しなければならない。リーブラケットと関係がある。{\mathcal{L}_X(Y) = \{ X, Y\}}

さらに様々な演算の間に関係式が成り立つ。例えば、{\mathcal{L}_X\circ d = d\circ \mathcal{L}_X} が成り立つ。特にCartanの公式が有名というか重要。
{\iota_X\circ d + d\circ \iota_X = \mathcal{L}_X}


これら微分形式とその演算は次のようにしてホモトピックに考えることができる。
{A(M) = (A^k(M), d^k: A^k(M)\to A^{k+1}(M) )} は複体である。{d^k\circ d^{k-1} = 0} より。
{\mathcal{L}_X: A(M)\to A(M)} は複体 {A(M)} からそれ自身への写像である。つまり、各 {k} に対して、
{\mathcal{L}^k_X\circ d^{k-1} = d^{k-1}\circ \mathcal{L}^{k-1}_X} が成り立つ。
そしてCartanの公式が示しているのは、リー微分 {\mathcal{L}_X} はヌル・ホモトッピク(null homotopic)であることを示している。{\mathcal{L}_X\sim 0}
つまり、写像の集まり {\iota_X^k: A^k(M)\to A^{k-1}(M)} が存在して、各 {k} に対して、{\iota_X^{k+1}\circ d^k + d^{k-1}\circ \iota_X^{k} = \mathcal{L}^k_X}
が成り立つ。

したがって、Cartanの公式をCartan homotopy formula(Tu, p.229)と言うのは妥当である。



いつかちゃんと多様体論をまとめます。
何かの参考になってくれたら嬉しいです。




僕から以上