三日坊主にならないためにとりあえず書く。しかし、あまりPV数には影響されないようだ。
今回は圏論についてのいくつかの疑問を並べてみる。
(1) 圏の定義と基礎づけについて
(2) Coequalizerについて
(3) 自由モノイド・自由群・自由加群などについて
(4) テンソル積について
- 圏の定義と基礎づけについて
圏の定義は意外に曖昧である。それは圏論の誕生当初からそうである。もともと自然同型(natural isomorphism)すなわち自然変換を定式化するためにできたからである。例えば、集合の圏 (category of sets) は実は曖昧な表現である。本当はこれは小さな集合の圏である。しかしこの'小さな' (small)を定式化するのは結構、めんどくさい。圏の厳密化や基礎(foundations)についてはいつか勉強したい。まだその辺は全然よくわからない。
しかし、圏の定義は道具としての圏のレベルでは主に2通りある。
一つは、宇宙(Universe)の存在を仮定して集合論的に基礎づける方法である。これはある特別な性質を持つ集合である。宇宙を用いて、'小さな'集合や'小さな'群などを定式化できる。
このようにして議論しているのは、例えばKashiwara and SchapiraのSheaves on ManifoldsやCategories and Sheavesなどである。
今一つは、局所小さな(locally small)を定義して議論するものである。これは任意の対象 に対して、 から への射の集まりが集合である圏である。このときは宇宙は考えない。
例えば、AwodeyのCategory Theoryとかはそうである。
圏の定義において、圏は対象の集まり(collection/ class)と射の集まりからなる。しかし射の集まりにおいて、はじめからlocally smallで定義している本がたくさんある。例えば、Kashiwara and Schapiraなどである。基本的に数学専攻ではそのようにしている。対して、Awodeyでは射の集まりは最初からlocally smallではない。この辺の違いがある。
この違いによって、例えば米田の補題とかも少し定式化が違ってくる。初めからlocally smallのときは、任意の圏の対象と任意の関手 に対して、ある性質が成り立つと定式化される。しかし、Awodey流の圏の定義ならば、任意のlocally smallの圏に対してとなる。
- Coequalizerについて
Coequalizerは商集合の例である事実は知っている。しかし、本当にそうなのかはまだわからない。
イクワライザー*1(equalizer)とコイクワライザー*2(coequalizer)の定義はそれぞれ次である。
射の平行なペア に対して、 と のイクワライザーとは、 であり、次の性質を満たすものである。
(1)
(2) 任意の射 with に対して、ただ一つの射 が存在して が成り立つ。
双対的に と のコイクワライザーとは、 であり、次の性質を満たすものである。
(1)
(2) 任意の射 with に対して、ただ一つの射 が存在して が成り立つ。
イクワライザーの例は具体的に知っているし、いろいろな教科書に載っている。例えば
集合の圏のとき、射の平行なペア に対して、 と のイクワライザーとは、
である。これは容易に示される。そしてこのことからイクワライザーと名づけられたのだなとわかる。
さらに、群の圏のとき、 に対して、 と のイクワライザーとは、
実は の核(kernel)である。
このような事実から「ああ、イクワライザーは核の一般なんだ。逆に、核はイクワライザーの特別なんだな。 と のイクワライザーは の核 だからイクワライザーが別名がdifference kernelなんだな。」とわかり納得する。
しかし対して、コイクワライザーの例は実はよくわからない。多くの教科書は適当に書かれている。
例えば、集合の圏において射の平行なペア に対して、 と のコイクワライザーは、 と から生成された同値関係により、 となる。 は商集合への標準的な全射である。このとき、 がコイクワライザーである、ということである。
このように書かれているが、実はよくわからない。「一体、 と から生成された同値関係とは何なんだ?」と疑問が生じる。
これをちゃんと議論している本は管見の限り Barr and WellsのCategory Theory for Computing Scienceしかない。一度読んだけれども、 と から生成された同値関係はかなりめんどくさいものだとわかった。まだ全然理解していない。
さらに、我々は一方で集合論的に商群や商ベクトル空間を作る方法を知っている。
例えば、簡単のためにアーベル群 の部分群 に対して、同値関係 を
と定義する。
このようにすると容易にわかるように が同値関係となり、 が商群となる。
このような商群の構成方法も、イクワライザーと同じように、 と から構成された商集合の特別バージョンだろう。だが、まだその辺は全然わからない。多分、インクルージョンマップ と ゼロ射 から構成された同値関係が、上の同値関係と同じなのかなと思っている。けど、わからない。
この辺の集合論的思考から圏論的思考への連続性をちゃんと理解したいと思う。
- 自由モノイド・自由群・自由加群などについて
代数は全然していないから、自由群などがわからない。ふわっとしている。たぶんそれは自由群などの概念が集合論的に 書かれておらず、普遍性で記述されているからかな。
自由モノイドや自由群などは、忘却関手において重要である。正確には忘却関手の随伴として重要である。
これまで忘却関手--ある構造を忘れる自明な関手,e.g., アーベル群の圏から集合の圏への群構造を忘れる関手--はしょうもない自明なものだ、なんでこんなのが重要なんだと思っていた。しかし、代数学にある自由群などを理解することによって、初めて忘却関手の重要性を理解できるのだろうと思い始めた。だから、ちゃんと自由加群などを勉強する。
代数以外では、コンパクトハウスドルフ空間の圏 から位相空間の圏 への忘却関手に対して、その随伴はストーン・チェックのコンパクト化(Stone–Čech compactification)であるから、それもちゃんと理解したい。
- テンソル積について
テンソル積は決定的に重要な概念であるため、じっくりと理解したい。テンソル積の定義はいくつかあるし、それらの全てを理解したい。
素朴な(最初の)定義はベクトル空間上で行われる。多変数線型写像を使って定義する。最初はかなり集合的に定義される。
だが、ベクトル空間上でのテンソル積は基底を用いて定義されるが、加群などになると一般に基底が存在しないため、別の方法で定義しなければならない。その一つが圏論的な普遍性によって定義される。この辺りの概念の連続性を理解したい。
圏論の定義や定理は抽象的であり具体例に乏しい。さらにその具体例が数学から来ているので、本当に圏論を理解したいのならばそちらもちゃんとしなければならない。定義を鵜呑みにして定理を理解することも大事であるが、具体例も大事であるから。
僕から以上